天使がくれた10日間
目を覚ますと、
まず視界に入ったのは灰色のタイルの見慣れない天井。
ボーっとした頭に、
どこかで嗅いだことのある匂いがここをどこか認識させる。
…病院?
えっと、
俺…
アスカを駅に送って、
それから…
どうしたんだっけ?
「透也ッ!」
名前を呼ばれて、
声のした方を見る。
母さんが、今にも泣きそうな顔で立っていた。
「母さん…」
「透也、あんたってば…もう…」
下を向いたまま肩を震わす母さん。
そんな母さんの肩を看護婦さんが抱いて、
「よかったですね、意識が戻って」
と、
子供をあやすように語り掛ける。
「お母さん、気持ちはわかりますけど、泣かないでください」
「ほ、本当に…」
「…お母さん?」
「―――ッの、バカ息子ッ!!」
母さんの怒鳴り声といっしょに、でかいヴィトンのバッグが俺に向かってとんできた。
それは、俺の頭にジャストミートする。
「い、いってぇぇぇ!?」
「あんたってヤツは!どんだけ心配かければ気がすむの!」
ガンガン痛む頭を抱える俺を気にもとめず、ひたすら怒鳴りつける母さん。
今度は病室にある花瓶を振り上げたので、さすがの看護婦さんも必死に母さんを止めに入った。
意味がわかんねぇ。
母さんは怒りだすし、
頭は死ぬほどいてぇし。
…誰か、
この状況を説明してくれよ。