天使がくれた10日間
記憶が、
ない?
どうりで変にぼけ〜っとしてるはずだ。
…じゃなくて。
それって、かなり大変なことなんじゃ…。
「多分、落ちたときのショックで混乱してるのね。おっきなたんこぶだけで済んだのが、奇跡だもの」
彼女が、
どこから、どうして落ちてきたのかなんて俺にはわからないけど、
…お互い気を失うくらい強く頭をぶつけたわけだし。
確かに、
奇跡としか言いようがない。
…あらためて、
彼女を見つめる。
やっぱ、
きれいな子だなぁ。
もしかして本当に天使かなんかなんじゃ…
てか、
この子の顔どこかで―――…
「…それでね、坂下くん」
「は、はい!」
またしてもうわの空になっていた俺に、
軽く咳払いをする婦長さん。
「この子、荷物も何も持っていなくて、身元がまったくわからないのよ」
「…はい」
「本当なら警察につれていくべきなんだけど、彼女はイヤだっていうし、病院側としては患者が嫌がることはあまりしたくないのよね」
「…そんなもんなんですか?」
「特に、彼女みたいな記憶障害の患者には、やさしくしてあげた方がいいのよ」
「…はぁ」
「…ってことで坂下くん」
「何でしょう?」
「少しの間でいいから、坂下くんのおうちでこの子を預かってくれないかしら?」
そう言って、
婦長さんは微笑んだ。
…何を言ってるんだ、
この人は。