恋の仕方、忘れました
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午後8時。
久しぶりに主任とふたりきりの時間。
主任に無理に残業するなと言われてからはなるべく早く帰るようにしていたけれど、さすがに主任不足だっま私はこの時間のために残業していた。
決して仕事が溜まっているわけじゃないけれど、少しでも主任と一緒にいたかった。
話さなくてもいい、主任と同じ時間を過ごしたかった。
でも、欲を言えば少し話せたらいいなとは思ってる。
無愛想じゃない、私にしか見せない主任を見たいなって。
そんな私を知ってか知らずか、主任は相変わらず無言でキーボードを叩き続けていた。私の方なんて見向きもせず。
相当忙しいんだろうな。来年度に昇進するんじゃないかって噂もたってるくらいだし。
でもいいんだ。こうして周りを気にせず主任を見つめられるだけで満足。とても贅沢な時間に感じる。
それにしても、相も変わらずカッコイイ。
私あの人とあんなことやこんなことした事あるんだ……うん、しんどい。
「成海」
「…………え、あ、はい!」
ぼけーっと頬杖をつきながら主任を見つめていると、彼の視線はパソコンの画面に向けたまま声だけが聞こえてきて、まさか話しかけて貰えると思っていなかった私は驚きのあまり思わず大きな声を上げてしまった。
するとその視線はゆっくり私に移り、怪訝な顔に変わる。
「……いつまですんの」
「え?」
「仕事。まだ終わんねぇの?」
「……ま、まぁそうですね。あと少し…」
本当は仕事なんてとっくに終わっているけれど、咄嗟に嘘をついた。
けれど主任は私を疑っているのか、眉間に皺を寄せながら此方をじいっと見てくる。
「主任こそ、まだ終わらないんですか」
「終わるよ。ただこの後K産業行くけど」
「え、今からですか?」
「うん、ポストに入れとくだけだけど」
主任はそう言うと、すぐそばにあるプリンターから数枚の用紙を取って、封筒に入れた。