恋の仕方、忘れました
今絶対キスしようとした。
こんな真昼間に。オフィスには沢山の社員がいるのに。
もし急に誰か入ってきたらどうするつもりなんだろう。
今日の主任は何か変だ。
「どうしたんですか」
「……」
「なんか主任らしくないですね」
「……面白くない」
「え???」
拗ねた表情で顔を離した主任は、コーヒーをひとくち口に運ぶ。
その綺麗な手元を眺めながら、やっぱり様子がおかしい主任に怪訝な顔を向けた。
「余裕があるお前はなんか嫌だ」
「え、余裕あります?ちょっとは主任に相応しい女になれたかな」
「は?」
「いえ、何でもないです」
こういうネガティブな発言をしたら怒られるのを思い出して、思わず口ごもる。
すると主任は、給湯室から出るつもりなのか踵を返し、私に背を向けた。
「そういえば来週、櫻井と出張行ってくるから」
「え、」
そして去り際に放った一言に、つい反応してしまう。
ちなみに櫻井さんというのは、歳が私のひとつ下で、とても美人な女性社員。
その櫻井さんと、二人きりで出張。
……もちろん、違う部屋だよね。
それは当たり前なんだろうけど、二人きりでずっと一緒。
いいな。ずるいな。
私も主任と出張に行きたい。
接待と聞いた時は何も思わなかったのに、何故だか櫻井さんだと気になる。
美人っていうのもあるし、もしかしたら櫻井さんは主任のこと……って思うと、そわそわしてしまう。