恋の仕方、忘れました
主任の車に乗り込み、K産業に資料を持って行った後、私達はそのまま主任の住むマンションに向かった。



久しぶりに乗る彼の車は、相変わらず乗り心地が良くて何度も夢の世界に引きずり込まれそうになった。

けれど、やっとふたりきりになれた喜びを噛み締めたくて、空いた方の手で何度もほっぺを抓っては現実に戻ってくる。

もちろん、もう片方の手は、主任としっかり繋がっていた。


無愛想で寡黙な彼は、実は甘くて優しくて、車内でずっと手を握ってくれるような人。

それを知っているのは、社内でただひとり、私だけ。


付き合ってからもう何週間も経っているというのに、その優越感に浸っては、口元がゆるんでしまう。





「さっきからニヤニヤしすぎ」



部屋に入るなり、彼はそう言って苦笑を浮かべる。


うそ、そんなに顔に出てた?


ひとり舞い上がっていたことが恥ずかしくなり、誤魔化すように窓際へ駆け寄ってカーテンを少しだけ開けると、そこから外の夜景を眺めて心を落ち着かせた。
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