カラフル
 日曜日の午後、インターホンが鳴った。
 ドアを開けるとたー子が立っていた。

「突然どうした?」
 俺はたー子に尋ねた。
「慰めにきてあげたんじゃん。ほら」
 言うと、たー子は買い物袋を俺に手渡しズカズカと上がりこんできた。

「ふぅーん、綺麗にしてんじゃん」
 たー子はぐるりと部屋を見回し、当たり前のようにソファーに腰掛けた。

 そりゃあそうだ。
 社会人二年目の春、夢の独り暮らしを始めて一週間の今日、俺は初めて彼女を家に呼ぶつもりだったのだから……

「ほれ」
 俺はたー子が持ってきた缶ビールを手渡す。
「あぁ、私はいいよ。井上が飲みな」
「あぁ……おう」
 俺は遠慮なくプルタブをひく。
「それで? 彼女から連絡あった?」
「あるわけねぇじゃん。振られたんだから」
「そう……別れる時はあっさりなんだね。結構長かったのにねぇ」
「おぉ……」
「落ち込んでる?」
「どん底だ」
 俺は大きな溜め息を吐いた。

「てかさぁ、こんな部屋にいるから余計気分が暗くなるんだよ」
 たー子はそう言うと、俺の自転車に乗って何処かへ行ってしまった。

 なんだあいつ……


 たー子とは、会社の新入社員研修で隣同士だった。

榎本多香子(えのもとたかこ)って言います」
「あ、俺は井上正隆(いのうえまさたか)。宜しく」
「宜しく~」
 そう言って見せたたー子の屈託のない笑顔を今でも覚えている。それは、俺の緊張を一瞬で和らげた。

 たー子とは部署は違うが、それ以来仲良くしている。気さくで明るく、いつも笑顔を絶やさないたー子は、男女年齢問わず、誰からも愛されるキャラだった。
 多香子で、たー子。それは俺が付けたニックネームだ。
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