恋をしたのはお坊様
二人飲み
隆寛さんを見て、初めはずいぶんイケメンなお坊様だなと思った。
佇まいも落ち着いていて、どんなことにも動じない。人間ができているというか、懐が深いというか、隆寛さんの前では心が穏やかになる自分がいることに最近になって気が付いた。

「隆寛まだ食べる?」
あらかた夕食が終わり、片づけを始めたお母様が聞いている。
「もう少し食べるよ、今日は金曜日だし」
「そうね」

普段、隆寛さんはお酒を飲まない。
それはいつ訃報の連絡があってもいいようにで、お寺の仕事に24時間休みはない。
それでも週に一度だけ、金曜の夜には晩酌をする。
その日は隆寛さんに代わりお父様がお酒を断って待機をすることにしているらしい。

「晴日さんもどうぞ」

私の前に置かれたグラスに、ゆっくりと注がれていくビール。
綺麗な琥珀色と真っ白な泡が層になって奇麗なコントラスト。

「いただきます」
私は遠慮することもなく、ビールを口に運んだ。

プハー、美味しい。
最近飲んでいなかったからかもしれないけれど、こんなに美味しいビールは初めてだ。

「ワインも日本酒もたくさんあるからね」
「はい」

お客さんが多くてその分頂き物も多いお寺では、食べ物やお酒を持て余してしまうことも多い。
もちろんできるだけは自宅で食べ、残ったお米や果物、お菓子などは近くの保育園に、お酒は町のお祭りのときなどに寄付をすることにしているらしい。

「よかったら場所を移して飲もうか?」
「そうですね」

いつまでも私達が台所で飲んでいればお母様が片づけられないのはわかったことなのに、失念していた。
私よりも先にそのことに気づいた隆寛さんは汚れた食器を流し台に運んでからおつまみとビールをお盆に乗せて台所を出ていた。
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