恋をしたのはお坊様
「僕は、この家の次男なんだ」
「え?」

お寺の跡取りとしてお坊さんになっているからには長男なのだと勝手に思っていた。

「僕には5歳上の兄がいてね、兄がこの寺を継ぐものとして育てられてきた」
「じゃあ、どうして?」
聞くのが怖いなと思いながらも、無意識のうちに口を出た。

「僕が大学生の時、兄が交通事故で亡くなったんだよ。雪の降る道でスリップしてきた車と衝突して、病院に運ばれた時にはもう手遅れだった。僕自身寺に生まれた者として人並み以上に命と向き合って生きてきたつもりなのに、兄貴が死んだときにはただ悲しくて初めて泣いたよ」

そりゃあそうだろう。
身近な人の死ほど悲しいものはないし、それが突然のものとなれば悲しみも倍増のはず。

「だから、お坊さんになったんですか?」
「うん。その日を境に僕の人生も変わってしまったんだ」
どこか遠くを見ながら話す隆寛さんが寂しそう。

「後悔、していますか?」

失礼なことは重々承知で、それでも聞かずにはいられなかった。
今自分が生きることに悩んでいるからだと思うけれど、お兄さんの死によって大きく人生が変わってしまった隆寛さんがどうやって気持ちの整理を付けたのかを知りたい。
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