恋をしたのはお坊様
生まれも育ちも東京。
会社勤めの両親と妹の4人暮らしでごく平凡な家庭。
小中高と公立の学校に進み、大学は私大。
学費はかかったけれど奨学金を借りて自分で賄い、大学を卒業後は都内で一人暮らしを始めた。
そうしてごくごく平凡に生きてきたつもりだったのに、ここに来て人生に迷うことになるとは・・・

「私はどこにも行き場がない」
古びた木製のベンチに座り、はあーとため息をついた。

『生きてるだけで丸儲け』
隆寛さんが言ったように、今ここに生きることに感謝すべきなのだろうと思う。
そう思えば、悩んだり妬んだりすることもないとわかってはいる。
それでも世俗にまみれた私は、「何で私だけが・・・」と恨む気持ちがわいてくる。
本当に、どうしようもないな。

ブブブ。
スマホの着信。

ん?
珍しい、隆寛さんからだ。

「もしもし」
「もしもし晴日さん?」
「はい」
「今どこにいるの?」
どうしたんだろう、隆寛さんの声が焦っている。

「えっと、少し休憩したくて、裏山の休憩所に・・・」
言いながらマズイかなと思ったけれど、嘘をつくわけにもいかず素直に話した。

「すぐに行くから、待っていて」
「え、そんな、1人で大丈夫で」

プツン。
言い終わらないうちに電話は切れた。
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