恋をしたのはお坊様
フフフ。
不意にお母様の笑い声が聞こえて、私は視線を向けた。

「どうかしましたか?」
「いえね、隆寛は生姜湯が嫌いなのよ」
「え、そうなんですか?」
意外だな、好き嫌いなんてなさそうなのに。

「生姜湯がって言うより、子供の頃から生姜が嫌いなの」
「へー、知らなかったです」

でも、生姜が入った料理が出ても普通に食べていたと思ったけれど・・・

「その素振りも見せないでしょうけれど、ああ見えて好き嫌いが激しいのよ。生姜もニンニクもわさびも唐辛子も、辛い物や匂いの強いものは苦手みたい。でもね、食べることは命をいただくことだから、僧侶をしている以上人前では平気な顔をしているわ」
「知りませんでした」
私はきっと隆寛さんの上辺しか見えていなかったってことだろう。

「それにしても、あの子があんなに怒るのを久しぶりに見たわ」
「あ、それは・・・」
あの穏やかな隆寛さんが怒るようなことを、私がしたから。

「いつだって自分を押さえて我慢しようとする隆寛だけど、子供の頃はわんぱくでよくお父さんに叱られていたの。長男には厳しく言う私達も隆寛には甘くてね、だらか余計にわがままだった。晴日さんは、あの子の兄が亡くなったことは知っている?」
「ええ、隆寛さんに聞きました」
「そう、あの子が話したの」
少しだけ驚いた顔をしたお母様は、着替えが終わった私と向き合って座りゆっくりと話し始めた。
< 24 / 39 >

この作品をシェア

pagetop