恋をしたのはお坊様
お寺を継承していこうとすると必ず跡取りが必要になる。
お寺に男の子が生まれれば、その子は周囲から跡取りと認識される。
実際には個性や資質、職業上の都合もあって必ずしも長男が跡取りになるとは限らないけれど、かなりの高確率で長男へと寺が引き継がれていく。
その分、寺の長男は特別な存在として扱われる。
お盆や法要など寺の行事には子供の頃から連れて行かれ、早くから檀家さんとの関係を築く。実際、隆寛さんのお兄様もそうだった。
『光福寺の若さん』町の人はお兄様のことをそう呼んだ。
お兄様自身も寺の跡取りとして修業に励み、住職との両立ができるようにと自営のできる建築士の道へと進んだ。
一方次男として生まれた隆寛さんは、いつも父とともに出かけていく兄をうらやましいと思いながらも自由に育った。
星を眺めるのが好きで、天文学者になるんだと大学に進んだ。
誰もがこのままお兄様が寺の跡を継ぐものと思っていた。あの事故の日までは・・・

「隆寛は、何の文句も言わずに寺を継ぐことを承知してくれたのよ」
ポロリとお母様の目から涙がこぼれた。

凄いなあ、もし私だったら『これも運命だから』と自分を納得させられるのだろうか。
きっと、隆寛さんも悩んだはずだ。

トントン。
「お母さん」
絶妙なタイミングで隆寛さんの声がした。
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