恋をしたのはお坊様
それからはただただ慌ただしく一日が過ぎた。
普段は寂しいくらい静かで広いお屋敷なのに、今は弔問客が後を絶たない。
その上遠方から集まった親戚たちもいて人口密度がすごいことになっている。
これだけ多くの人が集まってもらって、おばあさまも喜んでいることだろう。

「高山さんとこのお嬢ちゃん、あんたもこっちでご飯を食べてしまいなさい」
葬儀のお手伝いのために集まった檀家さんから声がかかった。

「ありがとうございます。でも、お庭だけ掃いてから頂きます」

このあたりの風習で、葬儀が終わるまで家族は台所に入ることができない。
そのために町内で死人が出ると近所の人が集まり煮炊きをして、家族や親せきの食事を作ることになっているらしい。
私も檀家さんや近所の人に紛れて掃除や食事の支度などのお手伝いをした。

人に酔ったのか外の空気が吸いたくなって、私は庭に向かった。
普段お庭の掃除はお父様の役目で、ゴミ一つないようにきれいにされている。
もちろん今だって掃除が必要な状態でもないけれど、少し一人になりたい思いもあって庭に逃げ出してしまった。
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