恋をしたのはお坊様
今夜はおばあさまの通夜。
棺に入棺してお父様と隆寛さんがお経を唱え、みんなで手を合わせる。
明日の朝出棺して葬儀までお線香が途絶えることなく供えられ、一晩中おばあさまを偲ぶことになる。
お母さまからは疲れたら部屋で休みなさいと言ってもらったけれど、きっと今夜は眠れないだろうな。

「晴日さん」

え?
箒を持ったまま振り返ると、隆寛さんが駆けてくる。

「どうしたの?」
まだお客様も大勢いて、忙しいはずなのに。

「晴日さんの姿が見えないからまた迷子になったのかと思ったよ」
「そ、そんな訳ないでしょ」
思わず笑って、隆寛さんの肩をポンと叩こうとした手をつかまれた。

「ほら、こんなに冷たくなって」
「え、だから、それは・・・」
「手袋もマフラーもせずに外に出るなんて何を考えているの。つい先日風邪をひいて寝込んだばかりでしょう?」
「そうだけれど・・・」

どうしたんだろう、隆寛さんがおかしい。
もちろん普段から優しい人ではあるんだけれど、いつもと違いすぎる。

「まだするの?」
「え?」
ポカンと口が開いた。

「掃除だよ。まだ終わらないなら手伝うけれど?」
「いらないよ。もう終わるから」

別にどうしてもしなくてはならない掃除ではなかった。
ただ、1人になりたかっただけ。

「じゃあ戻ろう」
「うん」

何のためらいもなく腕をとって歩き出す隆寛さんの背中を私は見ていた。
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