恋をしたのはお坊様
「どうぞ」
「ありがとう」

はじめて入った隆寛さんの部屋。
男性らしくシンプルで落ち着いたインテリアと、大きなデスクが目を引く綺麗なお部屋。

「これって天体望遠鏡?」
「そうだよ。小学生の頃買ってもらったんだ」
「へー、すごい」

部屋の一角には小学生に買ってやるにはいささか立派な天体望遠鏡が存在感を醸し出している。

「晴日さんは子供の頃何が好きだったの?」
興味津々で望遠鏡を見ていた私に隆寛さんがたずねた。

「うーん」
唸ったまま考え込んでしまった。

私の趣味、好きなもの、特技。
考えてみれば何もない気がする。
成績は中、背も高いわけでも低いわけでもなく、中肉中背の標準体形。
運動も好きだけれど、得意種目がある訳でもなく、過去何かを続けてきたっていう経歴もない。
いつも平凡に、できるだけ楽な道を選んで来た。

「僕は星空を見るのが好きでね、いつも外へ出て眺めているような子供だった。そんな僕の小3の誕生日におばあさんがプレセントしてくれたのがこの望遠鏡だった」
「へー、そうなのね」

今でもこんなに綺麗にしてあるってことは、隆寛さんが大切に手入れしてきたってことだろう。

「この望遠鏡で星空を眺めながら、いつか新しい星を発見して名前を付けるんだって思っていたんだけれどね」
「大学では天文学を専攻していたんでしょ?」
「うん。一生星の研究をして生きていくつもりだったのにな」

辛そう顔をしてフーと大きなため息をついた隆寛さんが、ゆっくりと私に近づきそっと抱きしめた。

「りゅ、隆寛さん?」
「ごめん。少しだけこうしていて」

かすかに震える隆寛さんの声に、私は返事をすることなく背中へと手を回した
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