恋をしたのはお坊様
「ごめん、みっともないよな」
頭の上から降ってくるような低音が、体に響く。

「そんなことない。隆寛さんはいつも立派だよ」
隆寛さんに顔を埋めたまま答えた。

いつも心穏やかですべてをあるがままに受け入れる隆寛さんの姿勢を、私は尊敬している。
人間だから嫌なことだって腹立たしいことだってあるはずなのに、それを微塵も見せないのはよほど人間ができているってことだろう。
実際隆寛さんの側にいるだけで、自分の行動を考えさせられることが多い。

そもそもここに来るまで、私は自分が不幸だと思っていた。
友人を傷つけた上司が許せないからって理由で会社に知らせ、そのことを逆恨みされて今度は自分に嫌がらせされて会社を退職するしかなくなったことを、私は何も悪くないのにと怒っていた。
でも考えてみれば私のやったことはただの自己満足で、誰のためにもならない行動。百歩譲って二度と同じようなことが起きないようにと思うなら、直接本人に言うべきだったのかもしれないと今なら思える。

「晴日さんだって十分立派だよ」
「そんな・・・」

私はただ現実から逃げていたんだろうと思う。
いくら綺麗なことを言っても、直接かかわって当事者になることを避けていた。
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