恋をしたのはお坊様
「隆寛さんて有名人なのね」
「え、どうしたの急に?」

緊張の出勤初日が終わりお母さんの手作りの夕食をいただいた後、二人縁側に並んで夕涼みしながら一日考えていたことを口にした。
私が知る隆寛さんは光福寺の住職。ただそれだけの認識しかなかったけれど、橘家自体が昔からの大地主で、街の名士らしい。
橘家本家のご当主はお父様なんだけれど、町には分家がいくつもあり病院や建設会社、スーパーやホテルなどを手広く経営しているらしい。
保育園の先生たちの話では、今でも橘本家の土地を踏まずに町を出ることはできないほどの広い土地を所有しているのだと聞いた。

「その気になれば高い車だって豪邸だって立てられるけれど、晴日さんはそんなものを望まないだろ?」
「そうね」

自分が今幸せだと思えることが一番。
贅沢して豪華なものを食べるより、つつましくても心のこもった料理を家族で笑いあいながら食べたい。

「だから、僕は晴日さんが好きなんだよ」
「隆寛さん」
私も好きですって言おうとしたのに、私の顔を覗き込むように近づいてきた隆寛さんの唇が塞いでしまった。

「もう」
誰が見ているかわからないのに。
「いいじゃないか、晴日さんは僕のだって主張しただけだよ」

恥ずかしげもなく言う隆寛さんに、ポッと頬が熱くなった私は下を向くしかなかった。


同じ感性を持ち一緒に笑いあえる隆寛さんとの暮らしは、やはり心地がいい。
いつもでもこの幸せが続きますようにと、この時の私は祈っていた。



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