恋をしたのはお坊様
私が運ばれてきたのは母の実家からそう離れていないところにあるお寺。
名前は確か・・・・『光福寺』
小学生の頃、夏休みに帰省した時にはここの境内でラジオ体操をした記憶があるし、祖母や祖父の法要でも何度か訪れた場所だから間違いない。

「まずは自己紹介からですね。僕は橘隆寛(たちばなりゅうかん)です」

突然言われ、私もああと口を開けた。
そう言えば、まだ名前も名乗っていなかった。

大森晴日(おおもりはるひ)です。今日はお世話になりました」
「どういたしまして」

年齢は29歳と教えてもらった隆寛さんは私よりも5年上で、その年齢以上にお坊さんらしい落ち着いた雰囲気からもう少し年上に見えた。

「そう言えば、あなたは高山さんの縁者の方ですか?」
「え?」

高山は母の旧姓。
結婚して父の苗字に変わったから今は高山を名乗っていいないけれど・・・なんでわかったんだろう。

「うちの母がお母様を知っていたらしくて、あなたの顔を見てピンと来たと言っていました」
「そうですか」

さすが田舎というか、何でも筒抜けなのね。
そういう意味では少し煩わしい。

「檀家さんであればなおさらここで休んでください。高山さんの所も今は住む人がいなくて家も傷んでいますから、すぐに泊まることはできないでしょうし」

確かに、祖母が亡くなって7年になる母の実家はその後誰も住んでいなくて、家も庭もすっかり荒れてしまいとても人が住める状態ではなかった。
私も今夜はどこかのホテルに泊まるつもりだったけれど・・・

「食事はここへ運んだ方がいいですか?それとも」
「大丈夫です、歩けますから」

マズイな、今夜はここに泊まることが決まった感じ。
でもしかたない。今は素直に好意を受けよう。
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