紫の香りに愛されて ゆきずりのコンサルタントに依頼したのは溺愛案件なんかじゃなかったんですけど
 気がつくと私は鼻歌を歌っていた。
 もしかして、私、浮かれてる?
 でも、なんかこんなふうに気分がうきうきドキドキはしゃいでしまうのって、小さい頃おじいちゃんに遊んでもらった時以来かも。
 玲哉さんのボディタオルを使うのはさすがに遠慮して、ボディソープを手で泡立てながら体に塗って、ふだん、あんまり意識したことのなかったところも入念に洗った。
 ああ、もっとちゃんとしておくんだったな。
 まさか、こんなところを……、あんなふうにされるなんて。
 想像もしてなかったから、油断してたな。
 また思い出しちゃった。
 と、泡を洗い流そうとしたら、磨りガラスの向こうに人影が見えた。
 ――え、何?
 もちろんお化けとかじゃなくて、玲哉さんだ。
 脱衣所と洗面所が兼用だし、奥はトイレだから、べつに姿を見せること自体はおかしくはない。
 でも、洗濯機が置いてあるあたりで立ち止まって、何かをしているようだ。
 私は体についた泡を流しながらそちらに意識を集中していた。
 と、四角いブルーライトが浮かび上がった。
 ――スマホ?
 え、何してるんですか?
 嘘でしょ。
 まさか……。
 下着の盗撮?
 それとも、私が出てくるところを待ち構えて……。
 ――最悪。
 こんな男に辱められようと思ったのは私だけど、ホント世間知らずで浅はかな自分が情けない。
 いくら辱めてほしいと言ったからって、そんな撮影まで許したつもりはない。
 ネットに上げられたら大変だし、そんな映像を何に使おうというのか、想像するだけで吐き気がする。
 下劣で卑劣でサイテーの男。
 ちょっとでも気を許した私がやっぱり馬鹿だったんだ。
 磨りガラスの向こうの影が動く。
 明らかに私の下着を取り上げている。
 サイッテー!
「もう、何やってるんですか!」
 私は思いっきり扉を引くと、勢いを最大にしたシャワーを浴びせかけた。
「うおっ!?」
 左手にスマホ、右手にブラジャーを持った変態男が顔を覆って隠していた。
 証拠はバッチリ。
 現行犯逮捕!
 言い逃れできないんだから。
 びしょ濡れの男になおもシャワーを浴びせながら私は叫んだ。
「盗撮は犯罪ですよ!」
「おい、落ち着け」
「私だって、怒るときは怒ります。裸の写真を撮ろうなんてサイテーですよ」
「写真?」と、変態男がシャワーヘッドをつかんで向きを変えた。「何のことだ?」
 もう、何よ、この期に及んでしらばっくれて。
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