紫の香りに愛されて ゆきずりのコンサルタントに依頼したのは溺愛案件なんかじゃなかったんですけど
玲哉さんが早速仕事の話を始めた。
あまり花が咲いていないのはなぜか、駐車場などの設備が荒れているのはなぜか、事前に調べてきた帳簿の内容など、質問事項はたくさんあるようだった。
今井さんはその問いに一つ一つ的確に答えていた。
「ここはバブル時代にゴルフ場として開発されたわけですけど、バブルが弾けて開発は中止、森林を伐採して虫食いみたいになった土地だけが残ったんですよ。先代の真宮さんは羽田に向かう飛行機の窓から房総半島を見下ろして自然破壊のひどさを嘆いたんでしょうね。それで、ここを買い取って薔薇園にしたそうなんですよ」
へえ、そういうことだったんだ。
「現状に至った経緯なんですが、いくつかの災害が重なりましてね。まず、東日本大震災の時に、あまりニュースにはならなかったんですけど、房総半島のこのあたりは断層があるんで結構被害が出たんですよ」
「なるほど」と、玲哉さんが薔薇の苗を見つめながらうなずく。
「それで、駐車場のアスファルトが波打ったようになってしまいましてね。おまけに、三年前に大型台風が房総半島に直撃したじゃないですか」
「ああ、そういえば」
私もそのニュースはよく覚えていた。
停電や断水だったり、大きな山崩れで道路も寸断されて陸の孤島になったところも多かったようだ。
今井さんが私の方に向きを変えて話を続ける。
「その影響で、アスファルトの下の土壌が流されたところがありましてね。それであんな風に穴が空いてしまったんです。他にもね、コース沿いの木がずいぶん倒れましてね。ほら、ゴルフ場って、風が吹き抜けるじゃないですか。それで木も倒れやすいんですよ。コースを囲ってるのは根の浅い針葉樹ですから、なおさらね。他にも、下の池があふれたり土壌も流されたりして、散々でしたよ」
薔薇から視線を戻した玲哉さんがたずねた。
「で、補修はしなかったんですか?」
「穴を埋めるだけなら、資材も機材もあるのですぐにでもできますよ」
「じゃあ、なぜ?」
「親会社から何らかの話があるんじゃないかと思ったんですけど、何もなかったんですよ」
え、なんで?
私の表情を読み取ったかのように玲哉さんが代わりにそれをたずねた。
今井さんは肩をすくめるだけだった。
「被害状況を調べて報告してたんですけど、上からの指示がなかったのでね。許可がなければ我々は動けませんよ。会社の資材ですからね。目的外に勝手に使うわけにはいきませんし。まあ、本当なら、台風でやられたときに薔薇園としては閉鎖していてもおかしくなかったんです。駐車場くらいならすぐ修繕できますけど、全体を復旧させる資金なんて出せないんでしょうからね」
三年前はおじいちゃんが亡くなった頃だから、引き継ぎもうまくいかなかったんだろう。
あまり花が咲いていないのはなぜか、駐車場などの設備が荒れているのはなぜか、事前に調べてきた帳簿の内容など、質問事項はたくさんあるようだった。
今井さんはその問いに一つ一つ的確に答えていた。
「ここはバブル時代にゴルフ場として開発されたわけですけど、バブルが弾けて開発は中止、森林を伐採して虫食いみたいになった土地だけが残ったんですよ。先代の真宮さんは羽田に向かう飛行機の窓から房総半島を見下ろして自然破壊のひどさを嘆いたんでしょうね。それで、ここを買い取って薔薇園にしたそうなんですよ」
へえ、そういうことだったんだ。
「現状に至った経緯なんですが、いくつかの災害が重なりましてね。まず、東日本大震災の時に、あまりニュースにはならなかったんですけど、房総半島のこのあたりは断層があるんで結構被害が出たんですよ」
「なるほど」と、玲哉さんが薔薇の苗を見つめながらうなずく。
「それで、駐車場のアスファルトが波打ったようになってしまいましてね。おまけに、三年前に大型台風が房総半島に直撃したじゃないですか」
「ああ、そういえば」
私もそのニュースはよく覚えていた。
停電や断水だったり、大きな山崩れで道路も寸断されて陸の孤島になったところも多かったようだ。
今井さんが私の方に向きを変えて話を続ける。
「その影響で、アスファルトの下の土壌が流されたところがありましてね。それであんな風に穴が空いてしまったんです。他にもね、コース沿いの木がずいぶん倒れましてね。ほら、ゴルフ場って、風が吹き抜けるじゃないですか。それで木も倒れやすいんですよ。コースを囲ってるのは根の浅い針葉樹ですから、なおさらね。他にも、下の池があふれたり土壌も流されたりして、散々でしたよ」
薔薇から視線を戻した玲哉さんがたずねた。
「で、補修はしなかったんですか?」
「穴を埋めるだけなら、資材も機材もあるのですぐにでもできますよ」
「じゃあ、なぜ?」
「親会社から何らかの話があるんじゃないかと思ったんですけど、何もなかったんですよ」
え、なんで?
私の表情を読み取ったかのように玲哉さんが代わりにそれをたずねた。
今井さんは肩をすくめるだけだった。
「被害状況を調べて報告してたんですけど、上からの指示がなかったのでね。許可がなければ我々は動けませんよ。会社の資材ですからね。目的外に勝手に使うわけにはいきませんし。まあ、本当なら、台風でやられたときに薔薇園としては閉鎖していてもおかしくなかったんです。駐車場くらいならすぐ修繕できますけど、全体を復旧させる資金なんて出せないんでしょうからね」
三年前はおじいちゃんが亡くなった頃だから、引き継ぎもうまくいかなかったんだろう。