紫の香りに愛されて ゆきずりのコンサルタントに依頼したのは溺愛案件なんかじゃなかったんですけど
「組織として成り立ってないんだな」
 玲哉さんがため息をつくと、今井さんが温室内をぐるりと指さした。
「元々うちはこういった苗木や鉢植えの花の販売がメインでしてね。薔薇園自体は営業してなくてもあまり問題がないんですよ」
「え、そうなんですか」
 そんな会社の仕組みなんて全然知らなかった。
「お嬢様はご存じなかったかもしれませんが、定評ある真宮ブランドの品質で、園芸界ではそれなりのシェアがありますから。苗木は薔薇園と違って人が来なくても出荷すれば儲かるのでね。だいぶ前からホームセンターとかにも卸して販路は拡大してますし、母の日のカーネーションなんかも南田さんの知り合いに臨時のアルバイトに来てもらったりして先月は忙しかったですよ。もちろん真宮ホテルの結婚式場もここの花です。だから、親会社としては現状維持の考えなのかと思ってたんですよ」
 ああ、そうだったんだ。
「ゴルフ場の空き地もほとんど苗木の培地として利用されています。珍しい蘭もありますよ」
「なるほど、決算資料を見て疑問だったことがよく分かりました」
 玲哉さんはポンと手を叩くと、腕組みをしながら私に顔を向けた。
「昭一郎氏から引き継いだお父さんの経営がある意味いい加減だったから、赤字会社を精算せずに放置していたんだろうな」
 お母さんと反対で、優柔不断な性格だものね。
 褒めちゃいけないんだろうけど、ここが残ったのはお父さんのおかげか。
「理由やきっかけはどうであれ、ここは今こうして残ってるんだ。それをどうするかは君が決めることだ」
 と、言われても……。
 私もお父さんの血を引いているのか、自分で決める自信がない。
「今井さんは、薔薇園を立て直すことはできると思いますか」
 私の質問に、今井さんは首をかしげながら苦笑を浮かべる。
「お金がかかりますね。何もかも新しく作るくらいの資金が必要ですよ」
「いくらくらいかかりますか」
「ちょっと待ってください。試算表があります」
 今井さんは温室を出て駐車場の奥にあった事務所の方へ駆けていった。
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