紫の香りに愛されて ゆきずりのコンサルタントに依頼したのは溺愛案件なんかじゃなかったんですけど
「やっぱり無理でしょうか。真宮グループ自体が赤字なんですから、ここに回す資金なんかありませんものね」
玲哉さんと二人だけになって、つい弱音を吐いてしまう。
「本当にそう思うのか?」
――え?
「経営者に必要なものはなんだ?」
「お金じゃないんですか?」
「それは経営に必要なことだ。経営をする者にとって必要なものだ」
何が違うんだろう。
「明確なビジョンとやり遂げる意思だ」
ちょうど今井さんが戻ってきた。
「こんなものを作ってみたところで意味なんかないだろうと思って誰にも見せてなかったんですよ。役に立ちますか?」
それは損害の評価と復旧にかかる費用を詳細にまとめた再建計画だった。
「今井さん、すごいじゃないですか」
おじさんは照れくさそうに、土のついた軍手で頭をかいた。
この試算表があれば、少なくとも道筋は描ける。
あと必要なのは経営者としての自分の覚悟だ。
私はもう一つ質問をした。
「薔薇園の花が咲いてないのはなぜですか」
「台風で土壌がやられて病気になりましてね。害虫も駆除したんですが、もう株自体が古くてだめなんですよ」
「植え替えできないんですか?」
今井さんの答えはあっさりしたものだった。
「できますよ。苗ならいくらでもありますから」
「じゃあ、なぜ?」
「このあたりは赤土とか粘土が多いんで、堆肥で土壌改良をしないといけないんですよ。そのための費用もそこに書いてあります」
ええと……、一、十、百……。
玲哉さんが横から瞬時に金額を読み上げた。
「材料費だけで億単位か」
そんなにかかるの?
「しかも、土壌改良は毎年追加で必要ですからね。金額的にはそこまで行きませんけど。苗木販売と違って、見せるだけだと薔薇は金がかかります。仮に再建しても薔薇園単体での黒字化は難しいでしょうね。苗木販売でもカバーしきれないです」
そうか。
やっぱり甘くないんだな。
おじいちゃんの趣味みたいな感じだったから、会社全体としてやってられたんだろうな。
経営から退いたら、そんな道楽にお金なんか出してもらえないよね。
「実は、もう一つ計画がありましてね」と、今井さんが巻いた紙を広げた。「薔薇だけだと一年の半分しか花は咲かないので、作り替えるなら冬でもお客さんを呼べるように、他の花やハーブを植えたらどうかと思いましてね。そのガーデンデザインも考えてありますよ。資金がないから実現しないだろうなって諦めてたんですけど、どうせできないのなら、逆にとことん、花好きが喜ぶ思いっきり夢みたいな計画にしてやろうってね。夢を見るだけならただですから」
玲哉さんと二人だけになって、つい弱音を吐いてしまう。
「本当にそう思うのか?」
――え?
「経営者に必要なものはなんだ?」
「お金じゃないんですか?」
「それは経営に必要なことだ。経営をする者にとって必要なものだ」
何が違うんだろう。
「明確なビジョンとやり遂げる意思だ」
ちょうど今井さんが戻ってきた。
「こんなものを作ってみたところで意味なんかないだろうと思って誰にも見せてなかったんですよ。役に立ちますか?」
それは損害の評価と復旧にかかる費用を詳細にまとめた再建計画だった。
「今井さん、すごいじゃないですか」
おじさんは照れくさそうに、土のついた軍手で頭をかいた。
この試算表があれば、少なくとも道筋は描ける。
あと必要なのは経営者としての自分の覚悟だ。
私はもう一つ質問をした。
「薔薇園の花が咲いてないのはなぜですか」
「台風で土壌がやられて病気になりましてね。害虫も駆除したんですが、もう株自体が古くてだめなんですよ」
「植え替えできないんですか?」
今井さんの答えはあっさりしたものだった。
「できますよ。苗ならいくらでもありますから」
「じゃあ、なぜ?」
「このあたりは赤土とか粘土が多いんで、堆肥で土壌改良をしないといけないんですよ。そのための費用もそこに書いてあります」
ええと……、一、十、百……。
玲哉さんが横から瞬時に金額を読み上げた。
「材料費だけで億単位か」
そんなにかかるの?
「しかも、土壌改良は毎年追加で必要ですからね。金額的にはそこまで行きませんけど。苗木販売と違って、見せるだけだと薔薇は金がかかります。仮に再建しても薔薇園単体での黒字化は難しいでしょうね。苗木販売でもカバーしきれないです」
そうか。
やっぱり甘くないんだな。
おじいちゃんの趣味みたいな感じだったから、会社全体としてやってられたんだろうな。
経営から退いたら、そんな道楽にお金なんか出してもらえないよね。
「実は、もう一つ計画がありましてね」と、今井さんが巻いた紙を広げた。「薔薇だけだと一年の半分しか花は咲かないので、作り替えるなら冬でもお客さんを呼べるように、他の花やハーブを植えたらどうかと思いましてね。そのガーデンデザインも考えてありますよ。資金がないから実現しないだろうなって諦めてたんですけど、どうせできないのなら、逆にとことん、花好きが喜ぶ思いっきり夢みたいな計画にしてやろうってね。夢を見るだけならただですから」