紫の香りに愛されて ゆきずりのコンサルタントに依頼したのは溺愛案件なんかじゃなかったんですけど
今井さんの広げた想像図に描かれているのは夢と魔法の花園だった。
池や森と一体化した敷地一杯に四季折々の花が咲き乱れ、陸地だけでなく、池には睡蓮を咲かせて、モネの絵画のように楽しんでもらえるカフェやレストランを配置するというのだ。
本当にこれが実現するなら、お客さんがどれだけ喜んでくれるだろう。
来た人が、もう一度来たい、他の人にも教えてあげたいと思うような理想的なフラワーガーデンになるんじゃないだろうか。
玲哉さんはイタズラっ子のようにニヤニヤしながら私を見ていた。
「で、君は経営者としてどうするんだ?」
どうせできないんだろうと思われてるのかもしれないけど、ここで引き下がるなんてできない。
「やります。今井さん、もう一度薔薇園をやりましょう。よろしくお願いします」
私が頭を下げると、今井さんは困惑したように背中を丸めて軍手を外した。
「あ、はあ……。まあ、私は指示されたとおりに動くだけですけど、本当に大丈夫なんですか」
「任せてください」と、玲哉さんが横から今井さんに手を差し出す。「私がサポートしますので」
なんか、いいところだけさらわれたみたい。
困惑顔の今井さんと握手をして私たちは温室を出た。
と、急に膝が震え出す。
勢いでやるなんて言っちゃったけど、何の根拠もないんだよね。
バンジージャンプの落下台に来るまでは自信満々だったのに、綱をつけられて下を見た途端に無理無理無理としゃがみ込んじゃう人みたいだ。
口で言うだけならなんでもできる。
今までの私は、それを口に出すことすらできなかった。
意思を表明することすらヒマラヤ登山なみの大冒険なのだ。
なのに、玲哉さんは余裕の笑みを浮かべている。
なんか悔しい。
「どうせできないだろうって思ってるんですか?」
「ん?」と、玲哉さんが立ち止まって私と向かい合う。「怖いのか?」
私は玲哉さんのスーツの袖をつかんだ。
「怖いです。自信がないですし」
「そうか」と、玲哉さんが私の肩に手を回して、レストランを指す。「向こうで話そう」
玲哉さんに包まれるように歩いているのに、あんまりロマンティックではない。
両側から薔薇の枝が張り出して通路が狭く、ジャングルをかき分ける探検隊みたいに歩かなければならない。
玲哉さんはスーツに棘が引っかからないか気にしてばかりいる。
レストランと売店が入った建物は、ゴルフ場のクラブハウスを利用したものだった。
メニューはカレー、ラーメン、うどん、ハンバーグ定食しかなかった。
「全部、出来合いのものを温めて出すだけだな」
カフェメニューはコーヒー、紅茶、オレンジジュースだった。
おまけに係員もいない。
食券売り場に、『御用の方はインターホンで呼び出してください』と張り紙がしてある。
「ここまでひどいと笑うしかないな」
池や森と一体化した敷地一杯に四季折々の花が咲き乱れ、陸地だけでなく、池には睡蓮を咲かせて、モネの絵画のように楽しんでもらえるカフェやレストランを配置するというのだ。
本当にこれが実現するなら、お客さんがどれだけ喜んでくれるだろう。
来た人が、もう一度来たい、他の人にも教えてあげたいと思うような理想的なフラワーガーデンになるんじゃないだろうか。
玲哉さんはイタズラっ子のようにニヤニヤしながら私を見ていた。
「で、君は経営者としてどうするんだ?」
どうせできないんだろうと思われてるのかもしれないけど、ここで引き下がるなんてできない。
「やります。今井さん、もう一度薔薇園をやりましょう。よろしくお願いします」
私が頭を下げると、今井さんは困惑したように背中を丸めて軍手を外した。
「あ、はあ……。まあ、私は指示されたとおりに動くだけですけど、本当に大丈夫なんですか」
「任せてください」と、玲哉さんが横から今井さんに手を差し出す。「私がサポートしますので」
なんか、いいところだけさらわれたみたい。
困惑顔の今井さんと握手をして私たちは温室を出た。
と、急に膝が震え出す。
勢いでやるなんて言っちゃったけど、何の根拠もないんだよね。
バンジージャンプの落下台に来るまでは自信満々だったのに、綱をつけられて下を見た途端に無理無理無理としゃがみ込んじゃう人みたいだ。
口で言うだけならなんでもできる。
今までの私は、それを口に出すことすらできなかった。
意思を表明することすらヒマラヤ登山なみの大冒険なのだ。
なのに、玲哉さんは余裕の笑みを浮かべている。
なんか悔しい。
「どうせできないだろうって思ってるんですか?」
「ん?」と、玲哉さんが立ち止まって私と向かい合う。「怖いのか?」
私は玲哉さんのスーツの袖をつかんだ。
「怖いです。自信がないですし」
「そうか」と、玲哉さんが私の肩に手を回して、レストランを指す。「向こうで話そう」
玲哉さんに包まれるように歩いているのに、あんまりロマンティックではない。
両側から薔薇の枝が張り出して通路が狭く、ジャングルをかき分ける探検隊みたいに歩かなければならない。
玲哉さんはスーツに棘が引っかからないか気にしてばかりいる。
レストランと売店が入った建物は、ゴルフ場のクラブハウスを利用したものだった。
メニューはカレー、ラーメン、うどん、ハンバーグ定食しかなかった。
「全部、出来合いのものを温めて出すだけだな」
カフェメニューはコーヒー、紅茶、オレンジジュースだった。
おまけに係員もいない。
食券売り場に、『御用の方はインターホンで呼び出してください』と張り紙がしてある。
「ここまでひどいと笑うしかないな」