紫の香りに愛されて ゆきずりのコンサルタントに依頼したのは溺愛案件なんかじゃなかったんですけど
「この女だって知り合いなんじゃないか。身内だろ」
卑劣な酔っ払いはまだ抵抗を見せるけど、高梨さんは機械音声みたいに平板な調子を崩さなかった。
「私は今朝頼まれた荷物を届けただけで、一度お目にかかっただけの関係です。一般的に宅配便の配達員は顔見知りでも身内とは言えませんし、その証言は裁判で客観的証拠として正式に採用されますよ」
宮村さんにがっちり抱え込まれて和樹さんがうなだれた。
玲哉さんの姿を見て、私の気持ちも少し落ち着いてきた。
地下駐車場で私が車から駆け出したときのことを振り返ってみると、いろいろと思い当たることがあった。
あのとき、私に突き飛ばされた玲哉さんは少し遅れて追いかけてきた。
歩幅が大きくて足の速い玲哉さんなら私がエレベーターにたどり着く前に追いついていたはずだ。
なのに、エレベーターにぎりぎりのタイミングで滑り込んできたのは、スマホで高梨さんに通話をつなぎながら走っていたからなんだろう。
そして、エレベーターで壁に手をついて『信じろ』と言っていたときに、玲哉さんは私のハンドバッグに通話状態のスマホを潜り込ませていたのだ。
まるで手品みたいな手法で、部屋の外に状況を伝えつつ、全部録音していたんだ。
こうなることも全部予想して、先回りして証拠を集めてくれていたんだ。
だから母の罵倒にも黙って耐えていたんだ。
全部、私のため。
私を自由にするための演技だったんだ。
「玲哉さん!」
私は和樹さんの腕をひねり上げている大事な旦那様の胸に飛び込んだ。
玲哉さんは卑劣な男を宮村さんにまかせて私を抱きしめてくれた。
「すまない。怖かっただろう」
「はい、怖かったです」
「ああ、いいんだよ。怖いって言っていいんだ。嫌だって言っていいんだ。いつだって俺が守ってやるから、だから、もう大丈夫だ」
こんなに頼りになる人なのに、一瞬でも信じられなくてごめんなさい。
玲哉さんが優しい目で私を見つめる。
「ちゃんと自分で自分を守れたんだ。できただろ。もう心配いらない。俺がそばにいるんだから」
『自分を大事にするのは自分だ』
私が自分を守ろうとしたから、玲哉さんが守ってくれたんだ。
窓の外には大粒の雨が打ちつけていた。
卑劣な酔っ払いはまだ抵抗を見せるけど、高梨さんは機械音声みたいに平板な調子を崩さなかった。
「私は今朝頼まれた荷物を届けただけで、一度お目にかかっただけの関係です。一般的に宅配便の配達員は顔見知りでも身内とは言えませんし、その証言は裁判で客観的証拠として正式に採用されますよ」
宮村さんにがっちり抱え込まれて和樹さんがうなだれた。
玲哉さんの姿を見て、私の気持ちも少し落ち着いてきた。
地下駐車場で私が車から駆け出したときのことを振り返ってみると、いろいろと思い当たることがあった。
あのとき、私に突き飛ばされた玲哉さんは少し遅れて追いかけてきた。
歩幅が大きくて足の速い玲哉さんなら私がエレベーターにたどり着く前に追いついていたはずだ。
なのに、エレベーターにぎりぎりのタイミングで滑り込んできたのは、スマホで高梨さんに通話をつなぎながら走っていたからなんだろう。
そして、エレベーターで壁に手をついて『信じろ』と言っていたときに、玲哉さんは私のハンドバッグに通話状態のスマホを潜り込ませていたのだ。
まるで手品みたいな手法で、部屋の外に状況を伝えつつ、全部録音していたんだ。
こうなることも全部予想して、先回りして証拠を集めてくれていたんだ。
だから母の罵倒にも黙って耐えていたんだ。
全部、私のため。
私を自由にするための演技だったんだ。
「玲哉さん!」
私は和樹さんの腕をひねり上げている大事な旦那様の胸に飛び込んだ。
玲哉さんは卑劣な男を宮村さんにまかせて私を抱きしめてくれた。
「すまない。怖かっただろう」
「はい、怖かったです」
「ああ、いいんだよ。怖いって言っていいんだ。嫌だって言っていいんだ。いつだって俺が守ってやるから、だから、もう大丈夫だ」
こんなに頼りになる人なのに、一瞬でも信じられなくてごめんなさい。
玲哉さんが優しい目で私を見つめる。
「ちゃんと自分で自分を守れたんだ。できただろ。もう心配いらない。俺がそばにいるんだから」
『自分を大事にするのは自分だ』
私が自分を守ろうとしたから、玲哉さんが守ってくれたんだ。
窓の外には大粒の雨が打ちつけていた。