紫の香りに愛されて ゆきずりのコンサルタントに依頼したのは溺愛案件なんかじゃなかったんですけど
第6章 新しい生活
 真宮ホテルのパジャマをおそろいで手に入れてから区役所へ行き、無事に婚姻届を提出して正式に夫婦となった私たちは、玲哉さんのマンションに帰ってきた。
 新しいパジャマ以外に新婚らしさはないけど、昨日出会ったばかりの私たちにとって、それでもまだあるだけましなんだろう。
「あのう、今日は私が夕食を作ってもいいですか?」
「そうか。なんだか照れくさいな。新妻の手料理なんて、想像するだけでもむずがゆくなるぞ」
 上着を脱いでハンガーに掛けている夫の背中が広い。
「冷蔵庫の食材とキッチンの調理器具、好きに使ってもいいですか?」
「ああ、もちろんだ」と、舞台俳優のように大げさに手を広げながら歩み寄ってくる。「今日からここは俺たち夫婦の家なんだ。何でも好きなように使ってくれよ」
「じゃあ、遠慮なく使わせてもらいますね」
 私が冷蔵庫を開けて材料を取り出している間、玲哉さんはシャツの袖をまくりながらそばに立ってじっと見ていた。
「時間がかかりますから、くつろいでいていいですよ」
「ああ、いや、何か手伝おうかと」
「大丈夫ですよ。お料理はそれなりに自信ありますから」
「まあ、なんだ……。二人の共同作業ということで」
 私は卵を持った両手の甲で玲哉さんの胸を押した。
「一人でやらせてくださいよ」
「なぜ?」と、意外そうな顔で口をとがらせる。「鶴の恩返しじゃあるまいし。隠すことないだろ」
「玲哉さんはお料理できるじゃないですか。口出ししないで我慢できますか」
「いやまあ、たぶん……」
「新婚早々言い争いになるのが目に見えてますよ。玲哉さんだって朝食を一人で作ってたじゃないですか。私が鶴みたいに飛んで行っちゃっても、それでもいいんですか?」
「あ、いや、そうか……」
 物わかりの良い旦那様はグラスに炭酸水を注ぐと、リビングの事務所スペースに退散してくれた。
 さてと、まずはご飯を炊かないと。
 新婚初日にお約束の失敗なんてしたくないものね。
 先に炊飯器を早炊きでセットしておいて、キッチンの棚から鍋やフライパンを取り出してコンロに並べる。
 今朝作ってもらったみたいに茹で野菜のサラダにしようかな。
 お料理に添えてもいいし。
 ブロッコリー、アスパラ、ジャガイモ、ニンジン、セラミックの包丁がどれもすっと入る。
 機能的でよくお手入れのされた包丁使ってるのね。
 お料理好きなんだろうな。
 ちょっとハードル高そうだけど、気に入ってもらえるかな。
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