紫の香りに愛されて ゆきずりのコンサルタントに依頼したのは溺愛案件なんかじゃなかったんですけど
 それから一口だけ芋煮風の汁をすすった玲哉さんが、ほうっと笑顔になった。
「食べたことないのに、なんだか懐かしい感じがする味だな」
「食べたことないのにですか」と、思わず笑ってしまった。
「不思議だな。でも、うまいぞ。豚汁よりもさっぱりめで、脂も柔らかい味わいだな。これはいい。おかわりし過ぎてしまいそうだな」
 それは何よりです。
 まだいっぱいありますよ。
「これは誰から教わったんだ?」
「ああ、祖父ですかね。うちは母が料理をしなくてホテルから調理師の人が来てたんですけど、これだけはよく祖父が元気だった頃に自分で作ってたんですよ。それで私も真似して作るようになったんです」
 へえ、そうなのかと、玲哉さんは何か考え事をするようにお椀を見つめながらコンニャクを噛んでいた。
「もしかしたら」と、玲哉さんが顔を上げる。「おばあさんの得意料理だったんじゃないのか?」
 ――あっ、そうか。
「そうかもしれませんね」
 それは気がつかなかったな。
 おじいちゃんにとって、思い出の料理だったのか。
 なんだか急に私も懐かしい味に思えてきた。
「不思議ですね。そう考えると味わいもぐっと変わりますね」
「ああ、でも、本当にうまいな。具だくさんだからこれだけでも十分ご飯のおかずになるし」
 と言いつつ、今度はブリに箸をつけた。
「これは照り焼きなのか?」
「ええ、和風とイタリアンの折衷料理です」
 どれどれと一切れほぐし、よくタレを絡めて口に入れたとたん、玲哉さんの目が丸くなる。
「うおっ、これは新しいな。オリーブオイルとニンニクでイタリアンなのに、味は確かに和風だ」
「めんつゆが簡単で、意外と合うんですよ」
「本当だな。紗弥花は天才だな」
 やだ、もう、褒めすぎですって。
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