紫の香りに愛されて ゆきずりのコンサルタントに依頼したのは溺愛案件なんかじゃなかったんですけど
◇
シャワーを浴びている最中に、ふと、昨日の『こと』を思い浮かべてしまった。
そういえば今夜って、新婚初夜っていうものだよね。
きっと昨日みたいなことをするんだろう。
ちゃんときれいにしておかないと。
念には念を入れておいた方がいいよねなんて、鏡に自分を映しながらあちこち見ていたら、急に恥ずかしくなってしまった。
何やってるんだろう、私。
全部見られちゃったし、いろんなことされちゃったけど、そんな私を受け入れてくれたんだから、心配しなくたって大丈夫でしょ。
浴室から出ようとして、バスタオルを用意しておかなかったことに気がついた。
「玲哉さん」
ドアを少し開けて顔だけ出して呼んだら、すぐに駆けつけてくれた。
「どうした?」
「ごめんなさい。バスタオルはどれを使ったらいいですか」
「ああ、すまん。これだ」
英国王室紋章入りのバスタオルだ。
「これ、そろえてるんですか」
「イギリスに行った時にまとめて買ってきた。ヒースロー空港の近くにウィンザー城があって、帰国の日に少し時間があったから寄ってきたんだよ」
「すごくふかふかですよね」
「何度洗っても肌触りがいいんだ。どうぞ、姫様」
バスタオルを広げて私の体に巻いてくれる。
「ありがとうございます、王子様」
「本当はこのままベッドに連れて行きたいところだけど、俺もシャワーを浴びてからにするよ」
「そこは強引にさらってくれなくちゃ」
「扱いの難しいお姫様だな」と、笑いながらドライヤーが差し出された。「風邪引くなよ」
「はぁい」
私が髪を乾かしている間に、玲哉さんはキッチンへ戻っていき、どこかに電話をしているようだった。
パジャマを着た私がリビングへ行くと、ちょうど電話を終えたところだった。
「さっそく出資者が現れたぞ」
「え、そうなんですか」
「ホテルチェーンの買収で有名なシンガポールの投資ファンドだ。もちろん、まだ、候補だけどな。結構前向きらしい。他にも数件興味を示しているところがあるそうだ」
「倒産しなくてすみそうですか」
「ああ、それは大丈夫だろう。あとは真宮ホテルのあり方をどうするか、一番いい条件を打ち出してきたところと交渉を進めていくことになる」
倒産寸前なんだから贅沢は言えないんだろうけど、なんとかここまで受け継がれてきた真宮ホテルが残るようにしてほしい。
「俺もシャワーを浴びてくるよ。ゆっくりしててくれ」
そう言われても、何もすることがない。
家から何も持ってきてないんだものね。
と、広いリビングにぼんやりと突っ立っていたら、急に耳元でささやかれた。
「パジャマ、かわいいぞ」
シャワーを浴びに行ったと思っていたからびっくりして振り向くと、片目をつむった玲哉さんが人差し指を突き出していた。
やっぱり目が痛い人みたいだ。
でも、褒められてうれしい。
「玲哉さんも早く着てきてくださいよ」
「おう、待ってろ」