紫の香りに愛されて ゆきずりのコンサルタントに依頼したのは溺愛案件なんかじゃなかったんですけど
南田さんがスマホを取り出し耳に当てる。
「はぁい、チカ。今ヒマ? あ? 仕事? ああ、そう、いいんだって仕事だから。傘まだある? ほら、あの馬鹿みたいなやつ。うちの社長がほしがっててさ」
私じゃないです、玲哉さんです。
「全部だって、全部。あ? 全部っつったら全部に決まってんじゃん。だから全部だって。あんでしょ? 全部だってば」
オーケーのサインを出しつつ、話はまだ続いている。
「はあ?」と、ますます返事が荒っぽい。「うちら薔薇園じゃん。花屋に造花売るって、あんたんとこの店じゃあ喧嘩も売ってんのかよ。シロクマにかき氷売るつもりかよ」
「ちょっと待ってくれ」と、玲哉さんが横から割り込む。「何の話だ?」
南田さんが耳からスマホを離した。
「造花が大量にあるんで、それも買ってくれないかって言うんすよ。こっちは本物育ててるんすけどね」
「いや」と、玲哉さんがスマホをのぞき込む。「その造花、どんなのか見せてくれないか」
「いいっすよ」と、ビデオ通話に切り替える。「売り物で出してたらしいんすけど、全然売れないんで、店でもそのまんまディスプレイにしてあるっつうんすよ。商売マジ下手くそ。潰れた会社の在庫集めて、自分が潰れるんじゃないっすかね」
南田さんの話は聞き流しつつ、スマホに映し出される造花を見ていた玲哉さんの目は真剣だった。
見たところ、意外とちゃんとした作りで、安っぽくない。
レストランの内装とかに使えそうだけど、どうなんだろうか。
カメラが切り替わって画面にチカさんの顔が映った。
髪は茶色いけどおとなしめなメイクで、しゃべり方も落ち着いた感じの人だった。
「造花なんで、黒薔薇なんてちょっと変わったのもあるんですよ」
「これはいいな」と、玲哉さんが感心したようにうなずく。「どれくらいありますか? 傘と一緒に全部買いますよ」
「うほっ、マジっすか」と、南田さんが驚いてスマホを落としそうになる。
チカさんの話だと二千本ほどあって、トラックで取りに来てくれるなら現金一括で十万円でいいそうだ。
「了解。傘と合わせて十五万円で引き取らせてもらいます」
玲哉さんが財布から現金で十五万円を取り出す。
「いつも持ち歩いてるんですか?」
「まあな。買い物の支払いはカードだが、キャッシュレスの時代とはいえ、現場では現金が物を言う場面もまだある。人間は拳よりも札束に屈しやすいからな」
あんまり聞いちゃいけないような気がして、それ以上は追究しないことにした。
「はぁい、チカ。今ヒマ? あ? 仕事? ああ、そう、いいんだって仕事だから。傘まだある? ほら、あの馬鹿みたいなやつ。うちの社長がほしがっててさ」
私じゃないです、玲哉さんです。
「全部だって、全部。あ? 全部っつったら全部に決まってんじゃん。だから全部だって。あんでしょ? 全部だってば」
オーケーのサインを出しつつ、話はまだ続いている。
「はあ?」と、ますます返事が荒っぽい。「うちら薔薇園じゃん。花屋に造花売るって、あんたんとこの店じゃあ喧嘩も売ってんのかよ。シロクマにかき氷売るつもりかよ」
「ちょっと待ってくれ」と、玲哉さんが横から割り込む。「何の話だ?」
南田さんが耳からスマホを離した。
「造花が大量にあるんで、それも買ってくれないかって言うんすよ。こっちは本物育ててるんすけどね」
「いや」と、玲哉さんがスマホをのぞき込む。「その造花、どんなのか見せてくれないか」
「いいっすよ」と、ビデオ通話に切り替える。「売り物で出してたらしいんすけど、全然売れないんで、店でもそのまんまディスプレイにしてあるっつうんすよ。商売マジ下手くそ。潰れた会社の在庫集めて、自分が潰れるんじゃないっすかね」
南田さんの話は聞き流しつつ、スマホに映し出される造花を見ていた玲哉さんの目は真剣だった。
見たところ、意外とちゃんとした作りで、安っぽくない。
レストランの内装とかに使えそうだけど、どうなんだろうか。
カメラが切り替わって画面にチカさんの顔が映った。
髪は茶色いけどおとなしめなメイクで、しゃべり方も落ち着いた感じの人だった。
「造花なんで、黒薔薇なんてちょっと変わったのもあるんですよ」
「これはいいな」と、玲哉さんが感心したようにうなずく。「どれくらいありますか? 傘と一緒に全部買いますよ」
「うほっ、マジっすか」と、南田さんが驚いてスマホを落としそうになる。
チカさんの話だと二千本ほどあって、トラックで取りに来てくれるなら現金一括で十万円でいいそうだ。
「了解。傘と合わせて十五万円で引き取らせてもらいます」
玲哉さんが財布から現金で十五万円を取り出す。
「いつも持ち歩いてるんですか?」
「まあな。買い物の支払いはカードだが、キャッシュレスの時代とはいえ、現場では現金が物を言う場面もまだある。人間は拳よりも札束に屈しやすいからな」
あんまり聞いちゃいけないような気がして、それ以上は追究しないことにした。