紫の香りに愛されて ゆきずりのコンサルタントに依頼したのは溺愛案件なんかじゃなかったんですけど
◇
九月も後半になって少し暑さも和らいできた頃、今日も老人ホームのお客さんをモニターとして招待していた。
玲哉さんのアイディアで作った造花の撮影スポットは思ったよりも好評だった。
真っ赤な薔薇でフォトフレームのように囲ったり、清楚な百合、向日葵や蘭など、本物ではあり得ないような密度で組み上げたステージはどれも華やかで、南田さんが次々にシャッターを切っていくと、お客さん達がどんどん笑顔になっていくのが分かる。
「なんだか歌劇団のスターになったような気分ねえ」
おじいさん達も最初はちょっと照れくさそうにしていたけど、だんだん胸を張っていい顔になってくる。
「こんな写真撮ったことねえや。娘に見せてやるか」と、その場で送信する人もいた。
意外なことに黒い薔薇で囲った場所が一番おもしろがられていた。
お葬式みたいでいやがられるかと思ったら、「なんか魔女になったみたいね」と、茶目っ気のあるおばあさんが写真を撮り始めて、しまいには行列ができていた。
「黒い薔薇には、執事の格好とか似合いそうっすよね」
南田さんまでおかしなことを言い始める。
「明日にでもイケメンの旦那連れてきてくださいよ」
はあ?
「なんでですか?」
「旦那さんイケメンだから、タキシードとか絶対映えますよ。なんなら社長もウエディングドレス着たらいいじゃないですか」
「あら、いいわねえ」と、おばあさんたちまで期待の目で私を見る。「なんなら私たちも着たいわよねえ」
冗談か本気か、みんな大笑いだ。
「それなら茜さんが今井さんと試しにやってみたらいいじゃないですか」
苦し紛れに私が返すと、南田さんが手を叩いて笑い出す。
「だってぇ、今井さんとあたしじゃ、美女と野獣じゃないですか」
と、この話はこの場で終わるものだと思っていた。