世界の数よりも君と一緒にいたい
頭がいいのは勉強だけじゃないんだ。世間を知るのも、流行に乗るのも、友達との関係も、そういう人生の至ってシンプルな何かがより頭をよくさせるのだろう。

「あたしも、そんなに頭悪くないけどさ」

おちゃらけた千世も、普通に勉強ができて、世間をちゃんと知っていて、流行についていって、友達とも仲良くしている。そんな人なんだろう。きっと、そうに違いない。

「千世には友達、いる?」

「友達、って呼べる関係もいた、かな」

彼女の言葉に違和感を覚えた。

「どうして“かな”って疑問形なの? そしたらまるで、今は……」

怖くてその続きは出なかった。

「うーん、私のことはいいからさ」

曖昧に返事をして話を変えようとする。なんだそれ。確かに僕が言えるようなことではないにしても、だよ。

「お腹、空いたりしない?」

千世がお腹に手をやったので僕もお腹にあててみる。

「うーん、まあ。少しだけ」

そんなに何か食べたいわけじゃない。けど、話題を変えたがっていた様子の千世が振った話なんだから「全然空いてない」なんて言えるはずもなかった。

僕は勇気の少しもなかった。

「あたしが何かお見舞いしてあげる。こう見えてあたし、料理得意なんだよ?」

確かに千世は家庭的には見えない。代わりに僕が料理をすればいいと思っていたのだが、だよ。意外と僕も料理ができたりするのだ。

……って、何一緒に暮らすみたいなこと考えてるんだ。羞恥心が顔に出たのか、千世は下から顔をのぞきこんできた。

「心晴くん、顔真っ赤だね。何考えてたのー?」

「うっ」

「ありゃ、その反応はどう捉えればいいですかね?」

完全に僕を面白がってからかっている。何面白がってくれちゃって。あ、いや、全ては僕が悪いのだけどね。人はやっぱり自分のせいでも誰かのせいにして自身を守りたくなるから。

「千世の意地悪」

嫌味だけ言ってから千世の前を歩くと、たたたっと千世が追いついてきた。
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