世界の数よりも君と一緒にいたい
こいつ、まさかのまさか、足が速かったり……?

「千世は足速いんだ?」

ぽつりと呟いたそれは、千世には聞こえていなかったらしい。

別にいいけどさ。こんなしょうもないこと聞かれていたって困る。

悔しいのだと思う。僕は足が遅いから、千世より遅かったら一日落ち込んでいられる自信がある。やっぱり男は女よりも上でいたい。――僕の場合。

「ねえ千世。ちょっと僕と競争しない? 駅まで」

駅までだったらあと八十メートルとか、それくらい。

僕の体力ならばこれくらいまんまとこなせるはずだ。

「ふーん、いいよ」

千世がすました顔で答えたのは見なかったことにしておく。
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