世界の数よりも君と一緒にいたい
「千世、足、早かったんだね……」

膝に手をやってハアハアと荒い息を整えながら千世を見た。

千世の顔は確実に僕を舐めて嘲笑っているような感じ。

怒りと悔しいの他は何も得られなかった。

「あたしはなんでもできるから。五歳で凡才、十歳で天才、十五歳で秀才」

千世の綺麗で澄んだ目は上から目線そのものだった。

「なんでもって……。勉強も運動も家庭科も?」

嫌そうな口振りで言ってやると、千世はなぜかケラケラ笑いだした。

「ちょっとー、心晴くん。いくら自分が運動できないからって、それは良くないよー?」

挑発してくるようなその言い方も怒りを増す。

事実だ。図星だ。正解だ。なんだか頭の中の考えていることとかが全て見透かされているような気分になって胸が痒くなった。

「別に」と素っ気なく返しておいた。

「ちょっと手ぇ抜いてやったんだよ」

意地張らなきゃ男らしさは保てない。僕に男らしさがない分、嘘でもなんでもとにかく紛らわしておきたい。フツーな男なれない僕にはこうするしかなかった。

そうだ、手を抜いてあげたのだ。相手は女の子だがら、それで。――はあ、もちろん嘘に決まってるじゃないか。

そういえば相手は女の子だからとかそんな考えこれっぽっちもなかった。もうその時点で男じゃないのかもしれない。僕は真の男にはなれないのかもしれない。
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