世界の数よりも君と一緒にいたい
駅についてからも何もなかった。というか、何も変わっていなかった。

不思議事のひとつやふたつ、起こってほしいと内心願っていたのだが、まあ作られた世界だからとはいえそんなファンタジーなこと起こるわけがない。不思議なことといえば、千世が変わった能力を持っていることくらい。

本ならば大抵「不思議なこと起きないなぁ」で起きるはずだがそんなこと一ミリたりとも感じなかった。

本なら、という思考自体がもう本に溺れている。

そしてもうすぐ大人という立場の僕が、子供らしくファンタジーな叶うはずもないことを願っていることに泣けてきた。

ああ、僕が可哀想だ。

僕が落胆している間、千世は何か喋っていたが、僕は右から左へと聞き流して適当に相槌を打っていた。

申し訳ないが、彼女がどんなことを喋っていたのかは記憶に残っていない。

電車は止まっていなくて少し歩かなくちゃいけない。

電車のあるところまで、線路を目印に。

駅構内から線路のある下におりてみた。不意に、この世界では“初めて”がたくさんあるんだろうなあ、と。きっとそれは嘘ではないだろう。
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