世界の数よりも君と一緒にいたい
第一章

世界の裏側

「こ、こ?」

あまり違いは感じられない。

路地裏を出てみても違うのは人が動かないということだけ。よくよく見ればちょっと灰色にも見える。

「あの……さ、手、いつまで握ってんの?」

後ろを向くと顔をうっすら赤くした千世が立っていた。手を見るとまだ握っている。

それを見た瞬間、羞恥が襲ってきてすぐに手を離した。

「ご、ごめん……」

「あ、いや、大丈夫」

にしても千世の顔を赤くした姿も可愛かった。

「ねえ、心晴くん」

ふらふらと歩き回っていると、横で千世が口を開いた。その目は上なんかじゃない、もっとその上の遠いところを見ていた。切なげに顔を歪ませて。

「君はもう、死ぬの?」

公園の時計は動いていなかった。

いつもの塾帰りの夕陽。

「ねえ、この世界で少しだけ、もうちょっと生きてもいい?」

「え、心晴くん?」

「僕、今は死にたくないや。……って、自分勝手でごめんね」

すると千世に両手を握られて前のめりで顔を近づけてきた。

「心晴くん、生きててくれるの?」

「え、うん。そういうつもり……」

「ホント? ホントなんだね? やった、ありがとう」

「え? えーと、うん」

千世はぴょんぴょんとうさぎみたいに飛び跳ねた。

「でもどこかで必ず死ぬけどね」

「あ、うん、それはね。ただ、今すぐに死ぬところを見ずに済んでよかったってだけ」

先を歩く千世は「やっぱ血とか見たくないじゃん」とヘラヘラした声で言っていた。でもどこか無理してそうで、なのに前にいるので表情はわからなかった。
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