君と過ごした世界は、どうしようもなく暖かい
秘密
その日は心地いい夢を見た。

愛おしい君と、桜を一緒に見るの。
夏は海へ行って、冬は雪景色を、秋は紅葉の中を二人で歩いて。
彼は優しい顔をしながら私に笑いかけてくれるの。

そんな…幸せな夢だった。



昨日の影響のせいかなんだか恥ずかしい夢を見てしまった。夢だとしても、笑いかけてくれるあの優しい表情は現実とあまり変わらなくて。

朝から気分が浮き立ってしまう。
ただでさえ昨日の余韻が抜けていないのだ、二人で撮った写真を見返すだけでつい口角があがる。


そんな気持ちを抱えながら、通学路を歩いていると
見覚えのある人影が見えた。
「…あれ、?」
サラサラとなびく黒髪は後ろ姿だけで分かってしまった。桐生くんだ。

彼はなかなか遭遇しないため珍しい。何故こんなとこを歩いているのだろうか。

そんなことを考えている間にも桐生くんはスタスタと歩いていってしまう。

まずい。今話しかけなければもうタイミングがないかもしれない、そう思い私は大声をだした。

「きっ、桐生くん!!!」

思っていた以上に声をはりあげてしまい桐生くんが驚いて振り返る。その表情は遠くからでも分かるほど迷惑そうですごく顔をしかめていた。

彼は気だるそうにため息をつきながらスタスタとこちらに向かってきた。

「…朝からなに?」

「ご、ごめんなさい…」

朝に弱いだけなのか、それとも私のせいで不機嫌なのか分からないが声の低さに少しだけ強ばってしまう。

「あの…実は桐生くんに聞きたいことがあって」
私がそう伝えると「…わかった。とりあえず行くぞ」と言って私たちは学校へと向かった。
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