君と過ごした世界は、どうしようもなく暖かい
「そういう事じゃなくてね、私変な夢を見るの」

その言葉を聞くと彼は「変な夢…?」と訝しげに眉をひそめる。

「幼い頃の私が夢にでてきて忘れないでって言ってくるの。その夢になぜか暖がでてきて…」

変なことを言っているのは自分でも分かっているけれど思いのほか彼は真剣に話を聞いてくれていた。

「ただの夢なのかもしれない、けど…その夢は暖がいなくなっちゃう夢なの。他にも私が泣いてたりして、妙に現実味があって…」

桐生くんは驚いた表情をして、一瞬固まっていた。

「桐生くん…?どうしたの」
「…別になんでもないよ、他には何かあるの」

「他には、佳奈のことも気になるんだよね」

「佳奈…それって"石野佳奈"?」

その名前を聞いて驚く。それは佳奈のフルネームだった。なぜ桐生くんが知っているのだろうか。

「えっ、そうだけど、なんで桐生くんが佳奈のこと知ってるの?」

桐生くんは決まりが悪そうに目を逸らしている。
でもすぐに観念したかのように話し始めた。

「石野は…同じ小学校だったんだよ」
彼の言葉に息を呑んでしまう。ということは、もしかして佳奈にあった悲劇も知っているのだろうか…。

「…もしかして、暖が佳奈のことを知ってたのって桐生くんから聞いたから?」

「何のことか分かんないけど、多分そうだろ」
桐生くんは「また暖のやつ…」と困ったように頭をかいている。

そんな彼を見ていると、暖のお人好しさに桐生くんが頭を抱えることは頻繁にあるのかもしれないと思ってしまう。
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