君と過ごした世界は、どうしようもなく暖かい
でも暖は「だめだよ、小雨でも雨にあたれば風邪ひいちゃうこともあるんだよ?」

と心配そうに眉をさげながら私を見つめる。


そんな子犬のような顔で言われると私もなかなか断れずに「わかった…」と了承してしまった。

なんだか、お父さん?
いや、お兄ちゃんのようだ。

世話が上手いというか、もしかすると暖には妹さんでもいるのだろうか。

そんなことを考えている間にも暖はすぐに傘をさして「じゃあ行こっか」と優しい顔を私に向けてくれる。

チカのためにと思うはずなのに断れない自分の弱い心と少しの幸せを感じていることに
嫌気がさす。

はぁと私は今日何度目かのため息をつく。

近寄ると肩があたってしまいそうで少し離れる。

そんな私に対して「肩、濡れちゃうよ」と私を引き寄せてくる彼はもしかしたら天然タラシなのか。

それにこうやって改めて隣に並んでみると意外と身長が高いことに気付く。

やっぱりよくない。

彼のことを見れば見るほど意識してしまう。

きっとそれは私だけで、
彼は何とも思っていない。

私のこの気持ちは決して恋なんかではない。

きっと最近人と話していなくて久々に優しくされたせいで脳がバグを起こしているのだろう。

私は自分にそう言い聞かせて、自分を強く保つ
ために私は両頬を軽くぺちんと叩いた。

その様子を暖が何事かというような目で見てくるので変な人だと思われる前に、私はすぐさま話題をさがした。
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