君と過ごした世界は、どうしようもなく暖かい
「聞きたいことありすぎだろ」と言ってケラケラと笑いだす彼にこの人笑うんだと失礼なことを思ってしまった。

笑った顔は少しだけ暖に似ていて、優しい顔をしていた。

けれどすぐにスンと元の顔に戻ってしまい、この人ずっと笑ってた方がいいんじゃないのかと思う。

そんなことを思っているとさっきの質問に返してくれる気になったのか「授業は大丈夫」と言ってくれた。

面倒そうにしながらも一つ一つちゃんと質問に返してくれる彼は思ったよりも律儀でいい人なのかもしれない。

「暖は、昔からの知り合い。たまたま通りかかったから気になっただけだよ」

そう言って苦虫を噛み潰したような表情で話す彼はあまりにもたまたまという言葉は似合わなかった。

その分かりやすさに思わず笑いそうになる。
嘘がつけない人なのかもしれない。

もしかするとあまり言いたくないことなのかも、そう思い私は暖のことでこれ以上深堀りして聞くのはやめておいた。

「…そうなんですね。名前は?」
この学校ではあまり見かけたことがないので彼のことが少し気になる。

その前に「タメでいいから、敬語堅苦しい」と言われてしまった。

桐生透和(きりゅうとわ)。あんたは?」
「桐生くん、か。私は氷室冷」

私が名前を伝えると、彼が少し目を見開いたように見えた。

けれどそのあとすぐに「ふーん」と自分が聞いたくせに興味がなさそうに返事をする。

やっぱり聞いたことがなかった。

暖とはまた雰囲気が違う部類だけれど、クールな人が好きな女子にはウケそうだ。
一度は耳にしそうなものだが、この人こそ校舎が違う理系の人なのか?

どうしようか、この人も転校なんてしてきたらと暖の時のことを思い出してしまう。

「…なんか色々考えてるみたいだけど、俺学校そんな行ってないから。」

あたふた考えている私に対してそういう彼は私の考えていることを見透かしているようだった。
私は何を言えばいいのか分からず、
「あ、そうなんだ…」としまらない返しをしてしまう。

でもそうだとしたら今日きているのは珍しいのかもしれない。暖のために?と思ってしまったけれどあまり考えるのはやめておこう。




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