君と過ごした世界は、どうしようもなく暖かい
教室に戻ると、体育終わりということもあるのか
まだ周りはガヤガヤと騒がしかった。
疲れた、とか体育教師の愚痴だったりとか、色々な声が飛び交っている。

そのおかげか私の存在はかき消され、席についても周りに気付かれることはなかった。

ふぅと安堵の息をもらしているとそんな時間はすぐに崩された。

佳奈がこちらに向かってきたのだ。
ついでに佳奈の友達も一緒に。

二人は私の席の前に止まると「ねぇ、体育なんでこなかったのー?」と答えを知っているのに意地悪く聞いてくる。

「どうせ一人になるのが嫌だったんでしょ」と私が答える前にケラケラと笑う彼女たちに嫌気がさす。

どうせ何も知らないくせに、私は一人になるのが嫌な訳じゃない。
周りを巻き込みたくないからだ。

「…あんたたちに関係ないじゃん」

言いたいことが色々あっても、私の口からはその言葉だけがこぼれでていた。

「は?関係あるよ、チカの友達だしうちら。チカがあんたにムカついてんだからうちらが言ってあげなきゃじゃん」と佳奈はチカの名前をだす。

何を言っているんだ。

違う、全然違う。
チカは私のことをどれだけ憎んでいても嫌っていても…いつも…苦しそうな顔をしていた。

いつもいつも突っかかってくるのは佳奈たちで。

私が本を読んでいて佳奈が本を奪った時も、周りが私の悪口を言っている時も。

チカは唇を噛み締めていた。
私の自意識過剰かもしれない、ただ私に対してイラついているだけだったのかもしれない。

それでも私はまだ諦めきれなかった、信じたかった。

チカはもうこんなことはしたくないと思ってるのかもしれないと。

だから何も言えなかった。
いじめてる側なはずなのに、私と同じくらいに苦しそうな顔をしているチカの前で言い返すことなんてできなかった。

「…っあんたらが…チカを語らないでよ!!チカを利用して私でストレス発散したいだけでょ?」

悔しかった。チカのことをわかった気でいるようなこの人達も、チカに嫌な思いをさせた私にも。

私があの日、逃げずにもっとちゃんとしていたら。
チカとしっかり話し合えていたならこんなことにはなっていなかったのかもしれない。

突然怒鳴り出した私に対して、周りも困惑しているという空気を肌で感じる。

佳奈たちも「…なによ急に」と変なものを見るような目でそそくさと逃げていくのがわかる。

自分でもおかしいのは分かっていた。
チカ自身が危害を加えていなかったとしてもいじめをしているのには変わりない。

それでも、私はチカを信じたかった。
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