君と過ごした世界は、どうしようもなく暖かい
そんな私たちの様子を見ていたのか、暖がにこにこと私を見つめているのが分かる。
視線が分かりやすすぎて穴があいてしまいそうだ。

「な、なんでそんなこっち見てるの…?」

「ん?だって冷が楽しそうだったから。かわいいと思ってただけだよ」とけろっとした顔で話す暖に私は顔が熱くなる。

そんな私に対して、ニヤニヤと口元を抑えているチカをぎろっと睨む。

「暖ってたまに変なこと言うよね」と顔を背けながら可愛げもないことを言ってしまう。

「…冷、顔になんかついてる」
「え…?!嘘、どこ」と暖の方をつい見ると
暖が目尻をくしゃっとさせながら、ふふっと声をだして笑いだした。

「ちょ、なんで笑ってるの?何がついてるの?!」
と慌ててる私に対して、なぜか暖は落ち着いている。

「うそうそ、ごめん冷」
と暖に返された。

なんでそんなしょうもない嘘をつくんだと少しむすっとしていると暖に「機嫌戻してよ」と言われる。

じゃあ、なんで…と聞こうとする前に私が聞くことを知っていたかのように暖が答えた。

「だって、全然こっち見ないからさ。冷の顔が見たかっただけだよ」と言われると、私は何も言い返せなくなる。

なんで暖は、こうやっていつも私が不安な時にすぐにその不安を吹き飛ばしてしまうのだろう。

魔法使いみたいだな、なんて現実味のないことを考える。

暖がいなくなる夢を見たからだろうか、暖が触れられる距離にいる。
当たり前のことなのに、その事実が今はすごく嬉しかった。
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