サイコな機長の偏愛生活(加筆修正中)
1 すれ違っても、同じ場所にいれば必ず逢える

ピピピピッ、ピピピピッ……。
空気を読まない無機質な音が、静寂を打ち破るように鳴り響く。

「…んっ、……か…おるさん……もぅ…ちょっとだけっ」

猫撫で声のような色気のある声音で呟き、逃がさないとばかりに抱きついて……。

「あと三分だけだぞ」
「……んっ~っ」

六時にセットされたアラームが鳴り響き、起き上がろうとする男の体を、半分寝入っている体で拘束しようとしている。

彼女の名前は、(たまき) 彩葉(いろは)(三十二歳)。
東京白星会医科大学病院の胸部外科医として勤務し、医大を首席で卒業した才女である。
三年ほど前に分院でもある羽田空港内のクリニックに勤務していたこともあり、その時にこの目の前の男と運命的な出会いを果たした。


国際学会から四日ぶりに帰国した彩葉。
帰国直後に緊急オペに駆り出され、八時間を超える手術をこなして、二時間ほど前に帰宅したばかり。

疲労と眠気と時差ボケで、恋人の顔すらまともに見れない状況でも、恋人への愛情は目減りしてないようだ。
ぐったりと恋人の胸に埋もれながら、嗅ぎ慣れた匂いに安堵して……。

そんな彼女を愛おしそうに見つめ、男は優しく包み込む。
四日ぶりに抱き締めた彼女のぬくもりを全身で噛み締めるように……。

疲労困憊で帰宅し、意識朦朧としながらシャワーを浴びた彩葉は、パジャマのボタンすらしっかり留められなかったようで。
掛け違いしているのを視界に捉え、男は思わず笑みを溢す。
そして、黒いブラキャミから覗く胸の谷間にドキッとして。
吸い寄せられるようにその場へと唇を当て、自分の存在を記す。

「んっ…」

男が赤く色づいた肌に指先を這わせた、次の瞬間。
ピピピピッ、ピピピピッ……と、再び無機質な音が響き渡った。

「彩葉、……続きはまた今夜に」

髪に優しく口づけて、男は寝室を後にした。

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