サイコな機長の偏愛生活(加筆修正中)
医局の壁掛け時計を呆然と眺める。
規律よく秒針が進んでいるのに、自身の体は全くと言っていいほどに動かない。
誰でもいいから、自宅の玄関先まで運んで欲しいと脳内が勝手に訴え始めた、その時。
自席のデスクの上に置かれたスマホからお気に入りの『SëI』の曲が流れ始めた。
「ッ?!!……はいっ、もしもしっ」
数秒前まで完全にミイラ化していた体が、一瞬で水を得た魚のように動き出す。
「彩葉?……終わったか?それとも、まだかかりそう?」
優しい声音に涙腺が緩む。
愛してやまない彼の声だ。
「先ほど終わりました」
「じゃあ、もう帰れるのか?」
「はい、着替えれば」
「それなら、迎えに行く。電車もバスも無いだろうから」
「いいんですか?こんな時間に……」
時計の針は深夜二時二十五分をさしている。
翌日は金曜日だから、仕事があるはず。
既に就寝している時間なのに、心配して起きていてくれたのだろうか?
「こんな夜遅くに、タクシーに乗せられない」
「っ……」
ちょっぴり色気を滲ませた声色に、胸がきゅっと締め付けられる。
「今から出るから」
「……はいっ」
「ん」
ツーツーと無機質な音が耳に届くのに、耳の奥が擽ったい。
郁さんに逢える!!
こうしちゃいられないっ!!
医局を飛び出し、更衣室へとダッシュした。
更衣室に到着した私は、息を切らしながら私服に着替える。
「あぁ~、もうっ!」
こんな時に限って色気のない服装に溜息が漏れる。
マキシ丈のスカートだというのが唯一の救いであるが、柄もトップスとの相性も最悪だ。
自分のチョイスにつくづく呆れ果てる。