サイコな機長の偏愛生活(加筆修正中)



「彩葉、痛い所は?」
「大丈夫です」

自宅に彼女を連れ帰り、酒井が手配した医療スタッフが交代でゲストルームに常駐することとなった。
それと、家政婦が実家から手配され、夕食用にキッチンで料理して貰っている。

「郁さん」
「ん?」
「指輪、……どこにありますか?」
「……あ」
「もしかして、捨てちゃいました?」
「いや、ある。ちょっと待ってろ」

寝室を飛び出し、ダイニングの壁にある彼女の指輪の元へ。
壁に突き刺さる三色ボールペンを引き抜き、再び指輪を手の中に収めた。

「フッ、……破壊しなくてよかった」
「坊ちゃま。お食事は寝室の方が宜しいですか?」
「ここに置いておいてくれ。取りに来る」
「はい、承知しました」

カウンター越しに指示を出し、寝室へと舞い戻る。

横になっていたはずの彩葉は、上体を起こして長座位になっていた。

「大丈夫なのか?……寝てなくて」
「平気ですよ。歯磨きしたり、トイレにも行けますし」
「無理するなよ」
「はい」

久しぶりに見た彼女の笑顔は、干からびた俺の心に潤いを与えてくれる。

「はい、……お願いします」
「フッ、……仕事以外で二度と外すなよ」
「はいっ」

白く細い彩葉の指先。
この小さな手で、沢山の命を救って来た。
……この俺も心も。

差し出された華奢な左手薬指に、大粒のダイヤが再び輝く。
その手をぎゅっと掴んで、そっと抱き締めた。

「愛してる」

無意識に漏れ出していた。

今言わなかったら、一生後悔すると思って。

「私も……愛してます」

そっと背中に回された彼女の腕のぬくもり。
この優しいぬくもりを生涯忘れはしないだろう。

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