サイコな機長の偏愛生活(加筆修正中)



夕食も済ませ、少し痩せた彼女を支えながら寝室奥にあるシャワールームの洗面室からベッドへと戻る。

「大丈夫ですよ、一人で歩けますから」
「俺が心配で嫌なんだよ」
「っ……」
「つわりはあるのか?」
「いえ、まだ」
「具合が悪い時は遠慮なく言えよな」
「……はい」

もっと優しく声を掛けたらいいのに。
数時間前に正気を失ったかのように怒鳴り散らしてしまったのもあって、ちょっと気まずい。

彩葉には知られたくなかった、裏の顔。
完全に素の俺は言葉も汚いし、理性という概念が欠如している。

きちんと向き直ってやり直そうとしたのに。
あんなにブチ切れてしまっただなんて。
不覚だ。
ホントにどうしたら……。

「郁さん」
「ん?……っ」

ベッドに腰を下ろした彼女は、柔らかい笑みを浮かべながら抱きついて来た。

「郁さんの匂いがする」
「当たり前だろ。違う男の匂いがしたら、問題だって」
「ウフフッ」

こうやって、俺の不安なんて杞憂だと思わせてくれるほど、彩葉の存在は計り知れないくらい大きい。

「彩葉」
「……はい?」
「『郁』という機体はかなり特別仕様で。操縦するのがめちゃくちゃ難しいから、羽を休める場所が必要なんだ」
「……はい」
「だから、いつでも『彩葉』というオアシスに着陸出来るようにしてくれないか?」
「…はい」
「人生は長い。嫌なことも辛いことも多々あるだろうけど、二人で何度も乗り越えて行こう」
「はい」
「俺も、『彩葉』という機体が自由に飛び回れるように、いつでも離発着出来る体制整えとくから」
「ありがとうございますっ」
「これからも宜しくな」
「こちらこそ、よろしくお願いしますっ」

人生の仕切り直し。
足並みを揃えるのも大事だが、自由に飛び回る時間も必要で。
だからこそ、休めるひとときが倖せに感じられるんだ。

俺の好きな香りを纏う髪に指を滑らせ、そっと後ろ首を支えて。
ぷっくりとした小さな唇にそっと口づけを。

~FIN~

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