サイコな機長の偏愛生活(加筆修正中)
「お客様っ」
「えっ?あ、はい」
「午後より、鹿児島上空に雨雲が予想されます。お車を運転の際には、どうぞお気をつけ下さい。……ご商談の御武運をお祈りしております。いってらっしゃいませ、よい旅を」
財前の気遣いに驚く女性。
そんな女性に、周りの視線も気にせず、財前は深々と一礼した。
仕事においては『鬼』と言われるほど厳しい財前だが、それも『お客様』あっての立場。
本部長としてだけではなく、会社の経営陣の一人として、常に最善な姿勢を取っているのだ。
しかも、この男。
戦略企画部の本部長だけではない。
日本最大手の航空会社の機長でもあるのだ。
経営や営業手腕だけでも圧倒される仕事ぶりなのに、運航乗務員としても活躍しているのだから驚きだ。
航空大学校を首席を卒業し、御曹司という肩書だけでなく、実力でも折り紙付き。
本部長業務を主とし、その合間に運航乗務もこなす。
いつ寝ているのだろう?と不思議に思わなくもないが、こんな男にも辛い過去がある。
七年ほど前に眼病が見つかり、その眼病のせいで一時は失明の恐れもあった。
死ぬほど好きな乗務を奪われ、全てを諦めもしたが……。
現在の恋人でもある彩葉の努力もあって、世界的に権威のあるスーパードクターに手術をして貰い、二年ほど前に病を克服した。
術後は安定していて、現在に至っても再発はしていない。
勿論、定期検査は受けているが、今の所、問題は無いようだ。
「本部長、会議のお時間です」
「了解」
ターミナル内を巡回している財前に声を掛けた、この男。
財前が社内で唯一心を許している秘書の酒井 一徹(四十歳)。
財前の父親である社長の秘書であった為、航空業界の業務の殆どを把握している。