サイコな機長の偏愛生活(加筆修正中)



航空貨物に関する定期会議に出席している財前は、運送部の深山(みやま) 淳平がパワーポイントで作成したスライドショーを眺め、ぴくっと眉根を寄せた。

「ストップ」

財前の一言で、室内の空気が一瞬で凍り付く。
十人ほどがいる小ミーティングルーム。
部屋の規模が小さいだけに、財前の息づかいまで聞こえて来そうだ。

「三ページの三行目と八ページの四行目に誤字、六ページ目のグラフは使い回しか?一昨年にも見た記憶が…ー…」
「っ……、申し訳ありませんっ」

場の雰囲気を読み、多少の誤字があろうと、担当者が説明を加えているのだから流せばよいものを。
この財前という男は、僅かな点に於いても指摘する。
妥協を一切許さない性格なのだ。

貨物専用機(フレイター)の運用をあと二割ほど伸ばしたい。精密工作機械(ステッパー)の需要がかなり伸びているから、船舶よりも揺れが少なく安全に輸送できるという点を前面に、各方面に働きかけてくれ」

机の上で指を組み、鋭い視線を向けていた財前は、漸くフッと息をついた。

**

十九時過ぎ。
珍しくこの時間に退社する財前。
今朝、自宅に残して来た恋人の元へと帰るために。

国際学会から帰国した恋人の彩葉。
二日間の休みを与えられているからだ。

昨夜は急なオペが入り、ゆっくりと出来なかったが、今夜は久しぶりに二人でのんびりと過ごしたくて。
昨夜のオペの疲れもあって、日中は寝ているであろうと思い、財前は連絡を控えていた。

首都高速を使っておよそ三十分の道のり。
その三十分ですらショートカットしたい思いに駆られる。

自宅があるタワーマンションの地下駐車場に到着した財前。
帰宅途中に受信したメールを開き、膝から崩れ落ちた。

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