サイコな機長の偏愛生活(加筆修正中)

翌日。
郁さんが出張で不在のため、朝の身支度にもやる気が起きない。

綺麗にメイクしても見せたい人がいるわけでもないし、職場に行けばスクラブと白衣を着るのだからお洒落も必要ない。
それでも、ノーメイクで出勤するわけにもいかず。
呆然と眺めながら、アイシャドウを乗せる。

しかも、今日は院長室に呼ばれている。

執刀した患者から訴訟でも起こされた?
もしくは、移動??

手術に落ち度は無いと思うけれど、こればかりは術後の経過と共に明らかになる。
術後も通院してくれれば経過を観察出来るが、他の病院へ治療転院されてしまえば、把握する術がない。

最善を尽くして執刀しても、時に心無い言葉を掛けられることもある。

だが、緊急性があれば、致し方ない。
例え、結婚を一か月後に控えている花嫁であっても、開胸しないと救えない命もあるからだ。

最小限の傷に留めたとしても、それでも傷痕が残ってしまうのだから。

郁さんとの挙式を控えた自分と重ね合わせて、胸が苦しいほどに痛んだのは言うまでもない。
出来ることなら、別の医師に代わって欲しかったくらいだ。
同じ女性として……。



出勤すると、相変わらず元宮くんは既に医局にいて、決してギリギリの出勤ではない私がほんの少し罪悪感を抱かされる。

「あっ、おはようございます、彩葉先生」
「……おはようござっ……今、彩葉先生って言わなかった?」
「はい、言いましたけど?それが、何か?」
「………」

一晩でパワーアップしてる。
昨日までは『環先生』だったのに。

「今まで通りに『環先生』って呼んで貰えるかな」
「何ですか?看護師さん達だって呼んでるじゃ無いですか」

あ〜またこれだ。
彼は口が上手いというか、必ず体裁の良い言い訳じみた返しをする。

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