サイコな機長の偏愛生活(加筆修正中)
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「酒井、今日はもう上がるから、酒井も上がっていいぞ」
「はい、お疲れ様でした」
とある日の十九時過ぎ、仕事にキリを付けて職場を後にする。
彩葉の一つ先輩である葛城が海外研修から戻り、『今日は定時で帰れそう』と漏らした言葉をしっかり拾い上げていたからだ。
彼女のお気に入りのケーキ屋さんが閉店するのが二十時。
事前に電話で予約しておいたケーキを閉店前に取りに行くためだ。
羽田空港からニ十分ほどの距離にあるケーキ屋『ル・クレール』。
甘さ控えめなのに濃厚な味が絶品だと人気で、疲れた彼女の活力源だと以前教わった。
店に到着すると、ケースの中には幾つかのショートケーキがあるだけで、ほぼ完売のようだ。
「いらっしゃいませ」
「予約した財前です」
「お待ちしておりました。少々お待ち下さい」
店内に流れる優しい音色の音楽と柔らかい照明の店内。
更に甘くときめくような香りが漂う中、目の前の可愛らしい子達が輝いて見えた。
「お待たせ致しました。こちらになります」
「あのすみません。ここに残ってるのも全部お願いします」
「えっ?全部ですか?」
「あ、はい。せっかくなので、全部頂きます」
「いつもありがとうございますっ!」
元々注文しておいたのは、ショートケーキのアソート(十ピース)。
いつもお任せでアソートにして貰っている。
季節限定のものもあるからだ。
当然彩葉だけでは食べきれず、翌朝職場に持って行く彼女。
休憩時間に医局やナースステーションの仲間と分け合うためだ。
だから、少しくらい増えた方が返っていい気がした。