サイコな機長の偏愛生活(加筆修正中)
彼女にケーキを手渡し、寝室へと逃げるようにキッチンを後にした。
勿論、至って冷静を装って。
けれど、内心は言葉に出来ないくらい動揺してる。
『元宮くん』というのは、一人しかいない。
一カ月ほど前から交換研修医として彼女が勤務する病院に来た、あの医師だ。
数日前に飲み会に行くと言っていたから、その時に打ち解けたのだろうか?
それ以前の彼女は、『交換研修医』の話題を振るだけで嫌な顔をしてたのに。
魚の骨が刺さったみたいに、痛みを帯びる危険信号のような気がする。
だって、時間外に彼女が職場の人間とあんなにも親しそうに話してるのを見たのは『先輩』という人物以外いなかったからだ。
シャワーを浴びながら、乱れる思考を整理しようと試みるも、全く出来そうにない。
むしろ、要らぬことを考えてしまって、ますます混乱する。
『シーフードが好きだから』というワードももれなく拾ってしまったからか。
いや、会話のどのワードも警笛を鳴らす素材なのは間違いない。
数分前の彼女の表情が瞼に焼き付いてて、払拭しようにもどうにも出来そうにない。
壁に手をつき、頭から呆然とシャワーに打たれていた、その時。
「郁さぁーんっ!」
ドンドンドンッとドアが叩かれ、外から彼女の声がする。
すぐさまシャワーを止めてドアを開けると。
「シャワー中、ごめんなさいっ!緊急オペに呼ばれたので行って来ますっ!何個かケーキを冷蔵庫に入れておきました。残りは職場に持って行きますね?」
「……あぁ」
「帰りは朝になるかもしれないので、先に休んでて下さいっ。夕食の用意はしてあるので、ご自分でよそって貰えますか?ホント、毎回中途半端でごめんなさいっ!」
「いいよ、気にしなくて」
「では、行って来ますっ!」
にこっと笑顔を残し、彼女は駆けて行った。