サイコな機長の偏愛生活(加筆修正中)

仕事最優先で、複雑な心境なのは分かっているつもりだが。
けれどそれでも、結婚自体は喜んでると思っていた。

だが、今の彼女の素振りからは、その嬉しさが微塵も窺えない。

「結婚するの、……嫌になったか?」
「………いえ」

何度となく、彼女にかけている言葉。
その度に彼女は即答で『いえっ!』と言っていたのに。
たった今の返答は『………いえ』と、かなりの間があった。

これまで、沢山のお客様や従業員を見て来て、それなりに見抜く力は備わっていると自負している。
相手の言わんとすることを読むのも、サービス業においては必要不可欠だから。

そんな俺が、今目の前にいる彼女の心境を読み解いた結果。
『躊躇している』もしくは、『後ろめたさ』のような心境に陥っているのだと推察した。

「時間つくって、少し話し合おうか」
「………はい」

**

十七時過ぎ。

「酒井、今日は早めに上がれよ」
「はい、有難うございます」

今日は定期検診日。
十八時からの予約に間に合うように退社した。

明後日の彼女の休日に合わせて話し合おうと思ったが、時間があるなら一日でも早い方がいい気がした。
よくある『マリッジブルー』ならいいのだが、今朝見た表情が気になって。

検診日だからいつもより早めに帰宅出来る。
彼女が夜勤日ではないから、好都合だと考えたのだ。



「経過は順調ですね。疲労蓄積しないように心掛けて下さい」
「はい」
「来月の予定を入れておきますね」
「有難うございます」
「では、本館の中央採血室で採血してからお会計を」
「はい、お世話になりました」

財前は主治医に会釈し、眼科を後にし、本館へと向かう。

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