サイコな機長の偏愛生活(加筆修正中)
スローモーションというのを体感したことが今まで一度もなかったのに。
生まれて初めて、それを今経験した。
俺の五メートルほど先にいる彼女が、俺以外の男から指輪を差し出され、困った表情ではなく、微笑むような明るい表情で何度も頷いている。
これが、今朝の答えなのだろう。
言葉では言い出し難く、メールでも言いづらい事だろうから。
指輪を受け取る所を見たわけじゃない。
というより、最後まで見届ける勇気がなかった。
拒絶してないということが何より証拠だと思うから。
だからといって、直ぐに心の整理がつくわけでもなく。
感情のコントロールの仕方が分からない。
オート機能は搭載されてないようだ。
*
車に乗り込んだのはいいけれど、自宅に帰って真っすぐ彼女の顔を見れるだろうか?
辛辣な言葉や暴言を吐いてしまいそうで怖い。
自分から『話し合おう』と言っておきながら、今はそれをする勇気も余裕もない。
時間が経てば解決するか?
いや、たぶん無理だ。
仕事が忙しくて逢えないだけでもぎくしゃくするのに。
こんな風に決定打のような瞬間を目の当たりにして、今すぐ彼女の気持ちを確かめたいとは思わない。
それこそ、夢だったと脳が誤作動を起こし始めているのだから。
大学病院の駐車場を出た財前は自宅へと戻らず、気の向くままに車を走らせていた。
日が沈み、ショップや街路樹のイルミネーションや照明が眩しく思えるほど、心が闇に閉ざされてしまったようで。
気付けば、会社がある羽田空港に到着していた。